おまえとオレを絶つ闇

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 毎日毎日、方々の役所から回ってくる書類に眼を通しながら、その決済のために参事官をはじめ専門の文官たちの助言や意見を聞くのはもちろん、各専門書と首っ引きになって頭をフル回転させているのだ。頑張って集中しようにも限度がある。 「陛下、焦らずともよろしゅうございますよ。きちんとご自分で理解した上でお決めになろうとするお心構えは大変ご立派でございます。ですがご無理をなさってはいけません。お体に触るようなことになれば、それこそお国の一大事。御身はお一人の身体ではないのですから」 「おいおいナル~。タリスみたいな仰々しい言い方するなよ~。余計気が滅入るじゃん」  聞いていてげんなりしたアルトは、ひらひらと手を振って見せた。  寝転がる彼の後ろに両膝をついて控えていた従僕のナルは、くすっと笑って頭を下げた。 「申し訳ございません。でもここのところ根を詰めすぎているのではないかと思いまして。フィール港の造船所問題に関してはまだ猶予がございます。パム森林の調査が済んでからでも大丈夫だと思いますよ」 「うん。そうなんだけどさ……」  ぽそりと呟いた視線の先には、数人がかりで手入れをされた卒のない庭園が広がっている。  どこもかしこもきっちりしていて美しいとは思うものの、どこか面白味がないとアルトは思っていた。  こうやって寝転がった姿勢で視界の角度が変わっても庭の印象は変わらない。規模の大きさにただただ感心するだけだ。  何度目かの溜息が漏れた時、扉を叩く音が聞こえた。  出迎えたナルとともに室内に入ってきたのは先程話題に上った執事のタリスである。  今の軽口が聞こえたかなと一瞬ひやりとしたアルトは慌てて身体を起こすと、その場で胡坐をかいた。 「なに?」  何となく落ち着きのない国王の様子に少し首を傾げたタリスだったが、職務熱心な彼は気にするでなく用向きを伝えた。 「陛下にご報告がございます。国務大臣からかねてより陳情されておりました、陛下をお育て申し上げた夫婦のことでございます」  途端にアルトは眉根を寄せ険しい表情になった。 「……おれの両親がどうかしたか? 村から出さないように監禁同然に見張ってんだろ。まさかその状態で何かあったなんて言いやがったら許さないって、おれ最初に言ったよな?」 「はい。それは重々承知してございます」 「じゃあなんだ」
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