おまえとオレを絶つ闇

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 面倒くさそうに片肘をついて顔を背けた主に、タリスはきちんと手を前に組んだ姿勢で軽く頭を下げて厳かに報告した。 「かの夫婦は、前国王陛下自らしたためました書状とともに生母さまのお手により陛下をお受け取りになり、これまで健やかにお育て申し上げた方々にございます。その方々をあのまま辺境の地に留めておくのは陛下に対してあまりに不敬であるとして、この度、王城の敷地内に住まわれていただきますことを閣僚の方々のご意見が一致しましてございます」  それを聞いたアルトは眼をまんまるに見開いて口をぽかんと開け放した。  後ろで控えていたナルが「おや可愛い」と、のん気に思ったほどだ。 「つきましては住居は陛下のご親族という扱いで、城内の第一区画に居を改めました。先日より準備を進めまして、本日夫婦揃って無事にお移りになられましたことを御報告申し上げます。そこで住居移転における陛下のおはからいに、ただいま謁見の間にてご挨拶に見えておりますが」 「それを早く言え!」  タリスが頭を上げた時には、アルトの姿はもうそこにはなかった。  謁見の間に飛び込んできたアルトの顔は、それはそれは輝いていた。歓喜にあふれ笑顔がこぼれんばかりだった。  ロイは他の連中を追い払っておいてよかったと心底思った。こんな愛らしいアルトの姿を誰にも見せてたまるかと思わず拳に力が入ったほどだ。  アルトは入ってきた勢いのまま両親に歩み寄った。その際、隣に控えるロイにちらりと視線をやったが、何故彼が両親の傍にいるのかなど、色々と疑問が浮かび上がるのを無理矢理押しとどめた。  そうして久しぶりに顔をあわせる両親を、あと一歩で抱きしめることができたはずが、二人がいきなり膝をついて頭を下げたため、アルトは愕然とした。 「ちょっ、なにやってるんだよ!」  父親だった人は差し伸べるアルトの手を見ることなく挨拶を述べた。 「陛下におかれましてはご健勝のほど大変麗しくお喜び申し上げます。この度はわたくしどものために格別のお引き立てを賜り、恐悦至極に存じます」  深く平伏する二人に、アルトは今にも震えそうになる手を頭にやって髪をかき回すことで(しの)いだ。何とか言葉をしぼり出す。
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