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きみとぼくを統べる未来
「まったく、いやな役目を引き受けちゃったなぁ」
ぶつくさ言いながら苦い表情を貼り付けたまま廊下を歩く若者と、その後ろを従者が小走りでついていた。
二人とも腕には大量の書類を抱えている。
顎で懸命に押さえつけながら歩いているが、この若者は、しっかりした体躯を備えているため、バランスを崩すことなく颯爽としていた。
絹のブラウスにリボンタイとワイン色に染め上げた革のベストを羽織った若者の出で立ちは、王宮内において少々質素で軽装ではあるが、目鼻立ちがくっきりはっきりした派手な容貌には、これくらいが似合いであるように思われた。
翻って従者はというと、小柄な上にひょろっとした体型で、若さゆえのバランス感覚でもってどうにか書類を落とさず状態を保たせているといったふうだった。
若者は時折振り返りながら、従者に声をかけていた。
「大丈夫かー。落とすなよー」
「は、はい! 何とか!」
「あーやだなー、こんな役目。不機嫌になるの眼に見えてるじゃんか。困ったなあ。でも僕がやんないとって思うしな。けど気が重い~」
いつまで経ってもぼやいている主人に、従者は「本当に貧乏くじを引く方なんだから」と、ひっそり溜息をついたのだった。
「なんだこれ?」
手にしていた書類を、ぽんっと書卓に放り出された国王は苦虫を噛み潰したかのような顔をした。それを見て、持ち込んだ当事者である若者は早くも諦めの溜息をついた。
国王陛下の執務室を訪ねた瞬間まではよかった。
書卓で王印を片手に奮闘していた国王は、顔を上げるなり破顔して自分を迎えてくれたのだ。
「おー、アッキー。久しぶり! 最近顔見せなかったじゃないか。元気にしてたか? おまえ宰相の副官に任命されたんだって? また面倒な職に就いたよなぁ」
「陛下、“アッキー”はやめてくださいって何度も言ったじゃないですか。僕の名前はジュリアン・アキフェルリシェルですってば」
苦笑して言うと、国王は構わず笑いながら言った。
「たから、そう呼んでるじゃん。姓が長いから略してるだけだろ」
「僕としては陛下にどう呼んでもらっても光栄の至りですけど、周りはそうはいかないでしょ? こんな些細なことで陛下の評判が堕ちるようなことになったら耐えられませんよ、僕」
「大袈裟だな、アッキーは。周りなんか気にしなくていいよ。おれはおれのやりたいようにやるの」
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