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「陛下ぁ、どうしたんです? 何だか元気ないですね」
「そりゃさぁ、一日中こんなところに籠って、紙と判子ばっか見ててみろよ。飽きて飽きてしょうがないよ。んあぁぁ、どこか、ぱーっと行きたいなぁ!」
ぐーんと伸びをしてぼやく国王に、ジュリアンはますます気が引けてきた。
自分がここを訪ねて来た用件を伝えたら、さらに機嫌を損ねるのは必至である。
しかし、これも役目。やらなければ宰相並びに閣僚の方々に大目玉を食らうのは眼に見えているし、なぜかこの役目は自分が果たさなければと思っているのだ。
少しでも陛下の心の負担が軽くなるように。そう願ってのことだった。
(僕なんかじゃ、たいして役に立たないだろうけど、なるべくなら陛下の意に沿える形に持って行きたいし。できれば上の人たちが本格的に乗り出す前に)
ジュリアンは改めて自分の意志を強め、ぐっとお腹に力を込めた。
「陛下。実はお目通しをしていただきたい書類があるんです」
「ああ、そういえばなんか持ってきてたな」
国王は自分の書卓に山と積み上げられた書類の間から首を傾けて、付属の円卓を覗いた。
またも書類の束かと思った国王は、いやそうに顔をしかめる。
「なんだよ~。まだ仕事増やす気かぁ?」
「あ、いえ。これは違います。息抜きにちょこちょこ見ていただければいいんですけど、とりあえず、その、ちょっと見てみてください」
歯切れ悪そうに話すジュリアンに、首を傾げながらも国王はのんびりと立ち上がった。
「ん? 仕事じゃないの?」
「あ、そっちに持って行きますから。とりあえず、この三つくらい見ていただいて……」
立ったままジュリアンの動きを見ながら、国王は首を伸ばして何だろうと思案しているようだ。
その横で控えていた従僕のナルは、何となくいやな予感を覚えながらジュリアンの行動を注視していた。
忠義深く、国王を心酔しているナルにとって、国王の心を乱す要因は極力排除したいと思っていた。政治的なことなら理不尽でも致し方ない場合があるが、それ以外のことで煩わしさをもたらすものは自分が盾になって国王を庇わなければならないとさえ考えていた。
ナルは思い切って書卓の前へ進み出た。
ジュリアンが書類を書卓に置こうとするのを遮る形になった。出過ぎた真似だと承知の上でのことだ。
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