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「そんな血管が切れるほど怒ることじゃないと思うんだけどなぁ。みんなと遊んでただけだよ? 王さまになってから中々海になんて出かけられないからさ、昨日は何とか行きたいなって思ってたんだ。だってさ、お祭りがあるって言うじゃん? 王さまだったら地元でどんなお祭りがやってるか知っときたいでしょ? そしたらさ、釣りやってるんだもん。これはやんなきゃだめでしょ~ってことで、道具借りてさぁ、参加したのよ。そしたら、これがまたデカイのが釣れたんだよ! すごいんだから! 自分の背丈ぐらいもあるのなんて、おれ初めて釣ったよ! 見たでしょ? 魚拓。あれはすごいよ。おれの釣り歴史の中で最っ高の瞬間だったな。もうすんごい楽しかったぁ」
その時の状況を思い出しているのか、アルトは半ばうっとりととろけた顔をして語った。
しかし老執事は“癒し系の王さま”と評判の和み顔を見ながらも、自身に気合いを入れてしかめっ面を保った。
「確かにここまで聞けば、いかにお立場の尊い方とはいえ民と戯れることは悪いことではございません。ですがしかし。わたくしの血管が切れそうなのはここからなのでございます! おわかりでしょうな、陛下?」
「ん?」
白々しく首を傾げる王に、老執事はそれこそ血管がいくつも切れて噴水のように血を吐き立たせているかのごとく雄叫びを上げた。
「どこの王に国民的お祭りを賭博場に仕立て上げる方がいらっしゃるのですかーーーっっ!!!」
「……そんなことしたっけ?」
アルトはくるりと振り向いて、控える騎士に訊ねた。
それに対する反応は、眇めた眼で見返されただけだった。
本当にこれが何度目であろう、ぶっ倒れてしまった老執事が衛兵に担ぎ出されてから、静まり返った謁見の間で、アルトは深い深い溜息をついた。
「……なんでおれがこんなに怒られなきゃなんないんだよ。一体誰の発案だと思ってる。それなのに!」
語尾を強調しながら今度は身体ごと振り返ったアルトは、そこに立つ王付きの近衛騎士団精鋭部隊隊長を思いっきり睨みつけた。
相手はイヤミなほど整った美貌に涼しげな笑みを浮かべて黙している。
「おれが怒られるのわかってて裏工作しやがって。どういうつもりだよ?」
「つまらないじゃないか。ただ遊ぶだけだなんて」
低い声が優しく発せられた。
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