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「アキフェルリシェルさま。それは何の書類でございますか? 宰相さまから事前の通達はされておりませんが」
「えっ、ああ、うん。そうなんだけどね」
ジュリアンはナルに視線を移して苦笑しながら答えた。
「ナル。僕のことはジュリアンでいいって言ったのに……。で、これはね。僕が宰相さまに言って運ばせてもらったんだ。僕がお役目を引き受けますって」
「お役目? それは一体……」
「うん。ナルも後で見せてもらうといいよ。陛下、こちらをごらんください」
国王は、そっと書卓の中央に置かれたものを見て、また首を傾げた。
書類かと思いきや、厚紙に上等な布張りの表紙がついた、なかなか豪華な装丁の冊子であった。
置かれた三冊のうち、一冊を静かに開いた。
最初に眼に飛び込んできたのは、淡い色彩で描かれた肖像画であった。
女性が綺麗に着飾ったドレス姿で椅子に座して、こちらに笑顔を向けている。
国王はすぐに何かの記念画かと思った。
続いて一枚めくってみると、今度は立ち姿である。同じ女性で同じ服装をしていた。
さらにめくると、今度は丁寧な筆跡でずらずらっと文字が並んでいる。
何行も読むことなく、この冊子が何なのか想像がついた国王は、ぱたりと閉じて投げ出すと、「なにこれ」の一言で持って、乱暴に椅子に背中を投げ出した。
すばやく書卓を回り込んだナルは、国王の許可なく冊子を手に取った。
開いて小さく眼を見張った。そしてジュリアンを振り返る。
「これは……もしかして、お見合い書、でございますか?」
重々しく頷いたジュリアンを見て、ナルもまた重々しく息を吐いた。
「では、あれは全部」
「そう。宰相さまや他の閣僚方からお預かりしたものなんだ。とりあえずお目通ししてもらえと」
「くだらない」
「陛下」
低く呟いた国王に、ジュリアンは笑顔を向け、優しく語りかけた。
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