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「気が進まないのはよくわかります。僕も女性と出会うのに家柄がどうとか、身分がどうとか、政略的に勧められるのは、正直好きではないです。でも陛下の場合は、ご正妃さまは陛下とともに国の代表となられる方ですから、それなりのご身分とご器量をお持ちでないと世論が納得しません。かといって、皆に勧められるまま決めるのは意に沿わないでしょうから、まずは、たくさんの候補者の方々とお会いしてみて、陛下のお好きに選んでみてはと、こういった冊子を作ってみたのです。やっぱり、一度はお付き合いしてみないとわかりませんからね~」
「そんなのいくら数いたって、おまえらに勧められた女なんか相手にできるか」
そう言い放ち、激しく席を立つと、国王は上着を引っ掴んで部屋を出て行ってしまった。
がっくりと頭を垂れたジュリアンは、溜息とともに呟いた。
「これは本当に長期戦になりそうだな。こうなったらロイどのにもご協力願うか」
するとナルは、静かに冷ややかな言葉をジュリアンに向けた。
「それはお止めになったほうがいいでしょう。これまでの陛下の信用を失くすことになりますよ」
「え!?」
狼狽するジュリアンと、心配そうに主人を窺う従者を残して、ナルもまた部屋を出て行った。
「どんどん面倒になっていくなぁ……」
第一区画の外れ、用水路を挟んで人工的に土を盛り上げて作った堤防にアルトはいた。
雑草が生い茂る堤防は、用水路を管理している役人や農作業に携わる平民ぐらいしか立ち寄らない場所だ。
アルトは密かにこの場所を、誰にも干渉されずにすむ休息所にしていたのだ。
秋が深まった今では、雑草はほとんど枯れてしまっているので、アルトは足で踏み固めると、マントを敷いてごろんと寝転んでいた。
「こんなところにいたのか」
突然声がして、驚いて振り向くと、ロイが馬から降りたところだった。
馬をそのままにしておいて、ゆるやかな傾斜を降りてくる。
「なんで?」
茫然とした顔で呟くアルトに、ロイは笑顔で答えた。
「ナルに頼まれた。アルトに会ったら煮詰まってるみたいだから気分転換させてくれってさ」
「なに、その煮詰まってるって」
「ん? 仕事してる最中に頭がパニックになって、発狂しながら飛び出してったとか言ってたぞ」
「ははっ、なんだよそれ~」
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