きみとぼくの境界線

3/5
58人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 満足げに微笑む国王に、少年もまた相好を崩した。 「陛下、御用がおありでしたら何なりとおっしゃってくださいませ」 「え?」 「あなたさまの思うがまま行動なさってください。僕はまたご一緒に駆け回りとうございます」  きょとんと少年を見上げたアルトは、笑んだままじっと見返してくる相手を「可愛いヤツ」と思いながら、また一個果実を口に放り込む。 「……そうだな。正直なんでおれが動かなきゃなんないのって思うけど。あんなバカのために。けどいつまでもこんな状態、周りからしたら傍迷惑だもんな。ナルさぁ、悪いけどあいつ探してきてくれない?」 「居場所は把握してございますので、すぐに支度をして参りますが?」 「あらら。……さすがというかなんというか。ナルにかかると、あいつも黙っていなくなった甲斐がないな」 「僕には特別な情報源がありますから」  くすりと笑う少年にアルトは一瞬眼を瞠って、次には得心がいったように手を打った。 「そうか! なるほど。ふふ、あいつも優秀な部下を持ったものだな」  イヤミ半分に言ったアルトだったが、もう半分は同情が入っていた。  何故なら少年には精鋭部隊の中に幼馴染みがいたのだ。昔のアルトとロイのように気安く肩を抱き合える友人が。  その部下を同行させている限り、ロイの行動は筒抜けなのだ。もっともロイにしても本気でアルトの眼を眩ませようなどとは考えていないだろう。  “いる”のに“いない”。  わざと自分にだけ知らせないという態度を取っているのだ。 (だから、わざわざ探しに行くなんてイヤなんだよ。そんなことしても、あいつの機嫌が直るわけがないし)  頭の中でぶつぶつ文句を並べ立てながら、アルトは少年に促されて部屋を後にした。  ロイは国の東北に面したシグリ領へ視察に行っているのだという。  数日前から領地内にある卸問屋と領民との間で諍いがあり、領主であるシグリ男爵が仲裁に当たっていたのだが、これが上手く行かず、殺傷事件を皮切りに紛争にまで発展してしまったらしい。  これを治めんと軍務省が乗り出し近衛騎士団の一隊が派遣されることになったのだ。  その報告を受けていたアルトだったが、まさか国王直属の精鋭部隊が出向いていたとは思わなかった。 「自分が出張る問題でもないくせに……」  そんなにおれと顔を合わすのがいやなのだろうか?
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!