きみとぼくの境界線

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 自分が国王の座に就いてのち、国が落ち着くまで、ロイは常に傍らにいて共に働いてくれた。  それが内戦の残務処理が終わり、内政が整い、町の復興が順調に進み、国民の生活に平穏が取り戻されていくと、徐々に彼の様子がおかしくなっていった。よそよそしくなったのだ。  きっと自分が王になってしまったことがいけないのだ。  前王が身まかり、次代の王を選定する際に浮かび上がったご落胤の存在。そのために勃発した王立派と改革派の争いの中、アルトとロイは必死になって巻き込まれまいと抵抗し続け、自らの出生の秘密に迫るという、まさに波乱万丈の展開となってしまった。 「おれはそんなものに為りたくなんかないっ、王さまなんて絶対に嫌だ!」 「わかってる。オレが守ってやるから、心配しなくていい」  言い知れぬ恐怖に震える自分を包んでくれた幼馴染み。  立場が変わっても傍にいると誓ってくれた。  だから為りたくもない立場に追いやられ、得たくもない地位と権利と財産を与えられ、矛盾した中傷と羨望の的にされて多大なる重責を背負わされることになっても必死に耐えてきたのだ。  それなのに今になって彼は自分から離れていこうとしている。 (なぜなんだ。なんで今更おれを突き放そうとするんだよ……) 「陛下。考え事をなさっていると馬から落ちますよ」 「んあ?」  突然声をかけられて、アルトは居眠りから覚めたように頭をもたげた。と、その拍子に身体が傾いていく。 「たっ、ととっ」 「大丈夫ですかっ?」  急いで馬を横付けてきた従僕に横合いから背中を支えられ、アルトは何とかバランスを保った。 「ごめんごめん。ぼーっとしてた。大丈夫大丈夫」  へらりと笑う国王に、小さく吐息して少年は前方を指差した。 「着きましたよ。あの砦に精鋭部隊のみなさまがいらっしゃいます」 「うん」  小高い丘の上に建つ領主の館を守るべく造られた砦は、だだっ広い高原地帯を横断するように三日月型をしていた。その中央に司令塔があった。 「隊長、陛下がお見えです」 「……お通ししろ」  中からくぐもった声がすると、扉を開けた副隊長に促されて、アルトは中へ入った。 「わざわざのご足労痛み入ります。陛下御自らお出ましにならずとも、伝令に頼んでこちらを呼びつければよろしいのに。何か急ぎのご用件でもございましたか?」
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