おまえとオレを絶つ闇

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おまえとオレを絶つ闇

 帯状の雲がゆったりと漂う水色の空と、小麦色の絨毯を敷き詰めている畑が広がる大地、そして前方を走るのは小さな白や黄色の野の花と枯れ草が並んだ小道。  実りの秋が、次の冬を知らしめるように収穫を急かせている。そんなふうに感じる景色の中を、蹄の音を響かせて一頭の馬が歩いていた。 「そろそろ刈り時かな……」  ぼそりと呟いたその声は、どこか楽しそうに聞こえた。  久しぶりに生まれた土地へ帰ってきたという懐かしさと、景色の移り変わりが速い秋の季節であるために人々はたくさんの行事を詰め込んで忙しなく過ごすという、あの賑々しさを思い起こさせて気分が軽やかになっているのだ。 「麦の収穫が始まったら祭りの準備をし始めるしな。めんどくさーいとか言いながらオレらも引っ張り出されたっけ……」  何を思い出したのか、馬上の人は眼を細めてくすりと笑った。  家屋が見え始めた辺りから、鳥たちがさえずるのによく似た子供たちの笑い声が聞こえてきた。馬上の人は馬から降りると手綱を引いて歩き始めた。  きゃらきゃらと声を立てて追いかけっこをしている子供たちの横を通り過ぎ、家の前で藁を編んでいる老人や行商人と立ち話をしている女たちの前を知らぬ顔で行き過ぎると、徐々に周囲の空気が緊迫していくのを感じた。 (……なるべく地味な格好をしてきたんだけどな。まあ田舎の村に帯剣した人間が来るとしたら領主の使いか警備兵くらいのものだからな。渡り戦士や盗賊すら遭遇したことがない村だし、怪しまれても仕方ないか)  苦笑して、それでもなるべく穏やかな空気をまとってゆるゆると歩いた。  しかし、ふと浮かび上がった記憶に、その表情がわずかに曇った。 (これだけのんびりした村でも、あの時だけはとんでもない騒動になったな。まさか王都の騒ぎがこんな辺境にまで飛んでくるなんて思わなかったし……) 「なあ、なんでおれの親たち呼ばれてんの? なんかおれまでついてこいって言われて来たけど……。ロイ、あの人たち王都の城の人間なんだろ? そんな人たちがおれんちに何の用があるんだよ」  訝しげな顔で自分を見つめるアルトの不安げな瞳を今でも忘れられない。  あの日、村長である自分の親たちに呼ばれてうちを訪れたアルトは、衝撃的な事実を聞かされた。
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