ごっこ遊びに乗じて

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ごっこ遊びに乗じて

▪過去作。言葉遊びバトンより朝陽×感情喪失白夜。 ▪切ない。ほのぼの。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 「朝陽は皆のお父さん、白夜は皆のお母さん!」 いつものように子供達とおままごと。 っても、幼い頃から男子はやっぱりやんちゃってもんで、おままごとで遊ぶのは女子組のみ。男子組は月陽に連れられ、外で色鬼だと。 「……おかあさん」 ぽつり。生気の抜けたような表情で呟く月之宮に子供達が群がる。それはとても喜色満面の笑顔で。    「そうだよぉ! 白夜は皆のお・か・あ・さ・んっ!」 「……、おかあさん……おかあ、さん……」   声調に感情が微塵も感じられない。それはまるで、ただ言われた言葉を繰り返す鸚鵡のようで。   「白夜、お母さん役嫌なの?」 「じゃあ眞菜が変わってあげようかぁ?」 「、…………」 「ん?」 ふと、ぶつかった視線。流そうにも、月之宮は視線を逸らしてはくれず。 これはまさか困窮サインなのだろうか? しかし助け船を出そうにも、言葉も感情も無いんじゃ動くに動けない。推察すら敵わない月之宮の態度には、思うように振る舞う事も出来ず。 「おかあさんって……何?」 「はい?」 「何?」 真顔で問われ、余計に思考を乱される。 『何?』と聞かれたところで、明確な答えが出せるような質問でも無いから。 「親、だけど。人それぞれ違う意味を持った言葉だからな。何とも言えないってか……」 「あっそ」 真剣に答えたつもりなのに。無愛想のまま外された視線。 自身の滴る溜息は、希望無く心に谺するだけ。 ひたすらの沈黙。厭に重苦しくて、それは今すぐにでもこの場から逃げ出したい程。 子供達がその空気に気付く筈も無く、おままごとは始まりを迎えてしまった。 「あぁ~……、あのぉ、月之宮サン?」 「…………」 虚な青は、無邪気にはしゃぐ子供達を一点に見つめていた。 ぽかん。半開きになった口元は、一体何を意味するのか。 「朝陽、」 「ん……? 何だ?」 ぼんやりと流れる時間は、子供がいるとそう長くは続かない。遠慮無く膝へと座り、顔を小突いてくる七瀬に虚空間は破られたんだ。 「白夜も七瀬達と一緒なのかなぁ……?」 「ん~?」 「お母さんいないの。お父さんも、いないの」 「……さぁ、な」 『帰る場所なんて無いです。昔から家族もありません』 俺と出逢ったあの日、月之宮は確かにそう言った。 それからこうして居候するようになった今、その過去を詮索する事は一切出来ず。 「はい! お母さん!」 「……?」 玩具の皿と、野菜と。眞菜からそれを受け取った月之宮は、反応に困っている御様子。 表情は然程変わらないが、身体がぴたり。硬直していた。 「白夜、それはねぇ」 それを見るに見兼ねた様子の七瀬が月之宮の手を取る。 そうして誘導されるように、此方へと向いた身体。 自然、合った目は、儚さを青で描くばかり。 「朝陽にね、あげるんだよ」 「……、……」 「『お父さん、召し上がれ』って」 不思議そうに目を真ん丸くした月之宮に、七瀬はにんまりしながら背を押すだけ。 そうして眞菜達の元へと戻って行ってしまった。 互いに言葉が無い。 真っ青な瞳は、皿の野菜に落ちていく。 この家に住むようになってまだ半月と経たないコイツに、おままごとは難解な遊びだったのかもしれない。 「ほれ、よこせな」 手を差し出せば、黙したたまま ちょこんと手のひらに乗せられた皿。それは素直であるが同時に無愛想な仕草でもあり、如何せん可愛くない。   「……俺達、一応鴛鴦夫婦設定なんですけど」 嫌味すら通じているのかいないのか。 顔色一つ変えず、睨むような視線だけを此方へと送って来る。 「設定に鴛鴦は含まれて無かったですよね」 どうやら嫌味の意味は通じていたらしい。肝心の嫌味自体は効いてもないみたいだが。 「あぁ~っ……はいはい、そうっすね。俺が旦那じゃつまんねぇ、と」 「誰もそんな事言ってない」 「態度が言ってるようなもんだっての」 「じゃあ、どうしたら良いの?」 「は?」 「鴛鴦夫婦って何?」 「……はぁ?」 再度、滴った溜息。コイツは今までどんな環境に置かれていたのか。 此処まで無知だとある意味、それが気になって仕方がない。 「いつ如何なる時も寄り添って、生涯支え合って生きてくのが鴛鴦夫婦なんじゃねぇのか?」 「…………」 「鴛鴦の契りとも言うだろ。鴛鴦のツガイみたくさ、毎日、仲睦まじく居るのよ」 「………そっ」 「っ、だから!」 思い切った。ごっこ遊びに乗じて、自分の方へと引寄せた肩。 伝わる体温は冷たくて、今にも砕けてしまいそうな程小さなもの。   「仲良くしましょうや。嘘でもいいから、笑ってほしい」  「…………」 「出逢った時のように、微笑んでくれるだけでも充分よ?」 「……、…………」 無表情の中で、口が少しだけぴくりと動いた。 微笑もうとしたのか、苛ついただけなのか。判断する術は無く。   「……悪かったな。無理言って」 子供をあやすように撫でた頭に、険しさを露にした眉。 こんな姿に胸を痛め、言葉を喪失して、踏み止まる事しか出来なくなる。 無難な道を行き、壁を厚くするだけの時間に果たして終わりは来るのだろうか?   「それでも、いつかは終止符を打たなきゃなぁ……」 「は?」 「何、こっちの話よ」 笑顔を向ければ、愛想の欠片も見せずそっぽを向く。 やっぱり、コイツは可愛げが無い上に扱いにくい。   「――それは、きっと……」 「ん……?」 「御互い様」   あれ……? コイツ今、笑った!? ……END ━━━━━━━━━━━━━━━
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