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引き際を忘れた雨宿り
▪四章終盤より隼人×白夜×小太郎。
▪切ない、微裏。
▪日常文。
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彼女の輪郭を滴る雨雫、濡れ鼠な身体が、彼の理性に刃をギリギリと立てる。本能を殺すように漏らした溜息に、彼女は一切気付かない。
「止まないね、雨……」
「そうだな。霧沢、お前が遊びに誘ったんだから責任取れよ」
「お前は呼んでねぇけどな」
「たまたま暇だったんだって。な、しろ」
「うん。にしてもさ、寒くなって来たね……」
「だよな~……よし、俺一走りで傘買ってくるわ」
土砂降りの雨の中、小太郎が街の方へと駆けて行く。
止める隙も無かった、と隼人に困ったような笑顔を向ける彼女。その瞬間、彼の紅眼はゆっくりと弧を描いた。
「寒いか?」
「うん、寒い。隼人は寒くない?」
「おうよ」
そうして彼女を自然な動作で抱き寄せたーーが。
無言で払い退けを食らった挙げ句、そっぽを向かれてしまった。面白くない上に可愛くない態度。ならば、と。
「へっ!?」
後から、強引に抱き締める。濡れた衣服のせいで、温もりは愚か、感触すら鈍く感じた。だが、それが何処か本能を疼かせる。枯渇した中身に、滑らかに軟水を与えてくれるようで。
「隼人っ……、やっ……、」
耳の輪郭を這う舌に、彼女は声を弱くさせられた。
そうは言いつつも、それが拒絶じゃなく、単なる上辺だけの言葉だと彼は熟知していた。何度も共に快楽を貪った女だ。骨の髄までしゃぶりつくしたと言っても過言では無い位、愛し合った。今更、拒絶なんて二文字は互いに無い。
「こっ、小太郎がっ……戻って来ちゃう……、」
「だから?」
「っ、み、見られたら……!」
「見られたら何よ?」
「っ………」
「宗太郎にはバレたくねぇか?」
耳元で囁かれた煽り文句に、彼女の頬が見る見る紅潮した。
何かを堪えるような表情が、彼の紅眼にはとても淫靡に映る。
見惚れる時間が惜しい。だからと先を急ぐが、太股に伸びた手はがっしりと掴まれ、その上 爪を立てられーー彼の表情が一瞬にして苛立ちで歪む。だが、そんな彼の心情を察したのか定かではないが、彼女はその腕を胸の方へと持ち上げ、自分を包み込むようにした。
その純粋さにはさすがの彼もお手上げで、力無くして抱き締める。
「見られたっていいよね、これなら……」
「大した変わってねぇだろ」
「変わるよ。寒いから温めてもらってたって言えばね」
「それが通るならヤれるだろって」
「もお~……隼人はそれしかないの?」
クスクスと腕の中で笑う彼女に、艶っぽい雰囲気は掻き消された。だから、頬擦りなんて可愛い愛撫で我慢する。してやる、と。だけど、こんな戯れ合いも彼にとっては癒しで、何よりの幸福で。
「遅いね、小太郎」
「いい事だ。お前とこうして居られるなら」
「……隼人こそ、悟さんにバレたら困るんじゃない?」
「何を今更」
「ふふっ……そうだね。今だけは雨に感謝、だね」
引き際を忘れた雨宿り。小太郎が戻って来るまでの数十分、その刹那の時間で彼女達は自傷行為と言わんばかりに切情を刻んだに違いない。
……END
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