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感傷だらけの晩酌
▪復讐断罪編より朝陽×弓鶴。
▪切ない。大人なふたり。
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朝陽の恋情を丸取りしていた彼女が、彼の傍から忽然と姿を消して 早一ヶ月と言う月日が流れようとしている。
彼女が居なくなってからの夜が、夜明けが苦痛だ。尋常じゃない程の寂寥感や喪失感をどうにか和らげたくて、酒に頼る。
それは毎晩の晩酌の量を遥かに上回り、彼をいとも簡単に溺れさせた。
「おい朝陽、そこまでにしときな。飲み過ぎだ」
「放っとけな。それより錦織こそ、もう寝ろよ~?」
だが普段とは違い、今日は弓鶴が遊びに来ていた。
だからこそ朝陽は少しばかり陽気で、そして強がっていた。
それを完璧に見抜いていた弓鶴は、彼から酒をぶん取る形で自分の杯に注ぐ。けれど、そんなの御構い無しに自分の頭をぐしゃぐしゃに撫で、子守唄を歌う彼に歯痒さが生じる。
この歌が、自分を想って口ずさんでいるものじゃないと弓鶴は存分に理解していたから。
「なぁ、朝陽……そんなに寂しいのかい?」
「……そりゃ、なぁ」
困惑を乗せた笑顔は切ない上に、余りにも痛々しい。
感傷に引きずり込まれるには充分過ぎたその表情に、弓鶴はある覚悟を決めた。
「……錦織?」
ふと胸にしまい、力無くして朝陽を抱き寄せる。
孤独を解消して、いち早く以前の眩しい笑顔を取り戻して欲しかった。恋情とかそんな生温い感情を抜きにして、ただ単純に底抜けに明るい彼そのものが好きだったから。
「この先はアンタの好きにしな」
それを取り戻す為ならば、身体のひとつやふたつ、なんてーーどうせ、白夜は戻らない。自分達も一度、彼女に捨てられた過去があるからこそ、朝陽の想いも、この先に続く未来もある程度は予測がつく。だからこその同情と、激励と。
「あぁ……そう、な」
緩やかにくびれを撫で下ろす大きい手のひら。弓鶴の顔が強張る。刹那、その手で身体をぐいっと押し退けられ、浮かぶ疑問符。驚いた彼女の顔を見、彼は微笑んだ。それはとてもとても、強がりを身にするような笑みでーー
「悪い。そうしてくれる気持ちは嬉しいんだけどさ……
俺はこの一生涯、月之宮以外求めねぇって決めてるんだ」
「……馬鹿だね、アンタは。嫌いじゃないけどさ、そういう男気に溢れた所は」
「ははっ……本当馬鹿よな? こんないい女に誘われたってのに、断っちまうなんてさ」
ふと肩を抱き寄せられ、弓鶴の顔が綻ぶ。
感傷に呑まれて、酒に呑まれて尚笑みを絶やさないこの男は、あの振り回し屋(白夜)が惚れるのも素直に頷ける、と。
「いつか後悔する日が来るかもなぁ~……『あの時、錦織とああしとけばよかった』って」
「止しな。それが私を傷つけない為の付け足し文句だって、私が解らないとでも思うかい?」
「…………」
「アンタは白夜が全て。そうだろう?」
「そうだよ。アイツ以外、女は要らないの。俺」
清々しい位のふてぶてしい笑顔に、弓鶴も笑みを溢す。
先に進めなくなった恋情の行方を手助けするのも悪くないか、泣き言位は聞いてやる。と。弓鶴は彼の晩酌に付き合う頻度を高めたのだった。
……END
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弓鶴なりの激励。弥一まではいかないけど、朝陽を認め、大事にしてるのが彼女である。友達以上恋人未満な二人なんですね、はい。
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