青鬼と死神が踊る夜

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青鬼と死神が踊る夜

▪四章より弥一×白夜。 ▪微裏、微グロ。 ▪暗殺描写含む。苦手な方は閲覧注意。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 澄み切った夜空に浮かぶ蒼月が美しい夜。田舎村の宿屋の一室。 そこでとある男が遊女二人を両隣に侍らせ、宴をしていた。 酒に酔い耽る遊女達。その真ん中で、愉快そうに酒瓶を口につける男。そんな三人をただただ傍観するだけの白夜は、呆れるかの如く溜息を漏らした。 「あの、弥一さん」 「何だ?」 「仕事ですよ?」 「だから何だ?」 いつもの無愛想な返事に、彼女は溜息を重ねた。不愉快を隠さない表情。手にした刀から、力がするすると抜けていく。 乱れ乱れて、淫蕩な雰囲気へと落ちていく彼等の声が耳障りで、耳を塞ぐ。そんな彼女の仕草を弥一は見逃さなかった。 「おい、小娘」 「何ですか」 「仕事だ」 刹那、弥一の刀が颯爽と半円を描く。血飛沫が畳や壁を遠慮なく穢した。そうして、数秒足らずで一人の遊女が血の池に沈む。 「私の台詞勝手に取らないで下さい」 それに大して驚く様子もなく、白夜は刀を片手に立ち上がる。 二人はどうやら、耳を微かに駆ける足音を見逃さなかったらしい。 彼女の得物の刃先が、もう一人の遊女を睨める──それは獲物を一心に捉えるかの如く。 戦慄し、瞳まで震わす遊女。露になった白い首筋に、刀が遠慮なく突き刺さった。それは彼女のものではなく、弥一の刃だったが。 「退屈はさせてくれるなよ」 向かった先で白夜の頭を鷲掴みにし、弥一は牙を剥き出しにする。蒼い視線の中で、彼女は妖笑した。「この月之宮白夜にお任せあれ──」と。 耳元で囁かれた台詞に穿たれる心。刹那、威勢良く開かれた襖からは複数人の男達。二人を取り囲み、それぞれの得物を手に殺気立っている。 「おやおや、美しい蝶がいるねぇ」 その男達の中心を闊歩するかの如く歩いて来た白髪の青年に、二人の尖鋭な視線が向く。間違いない。今回の標的だ、と。 「蝶……? 私が蝶、ですか?」 「そうそう。蒼い殺人鬼に蝶は似合わないんじゃない?」 「蛾かもしれませんよ?」 「ははっ。虫は嫌いかな? じゃあ、花はどうかな?」 「すぐ散れと?」 「捉え方がマイナスばかりだね。そこの野蛮な殺人鬼に君は似合わないって話をしているだけなのに」 胸から取り出された大苦無。白夜が固唾を呑み、刀を構える。 二人の暗殺者を目の前にしていると言うのに、青年は余裕だ。嘲笑するかのように肩を震わせ、二人を視界に入れているのだから。 「はっ、ほざくな。そんな女々しいものを愛でる趣味はねぇ」 だが、弥一もまた余裕で、その上挑発的だ。つり上がる口元。 そうして、これが自分の得物だと言わんばかりに白夜の頭を鷲掴み、わしゃりと撫でる。 優しい愛撫ではないけれど、不思議と彼女の緊張はそれで解れていくのだ。 「“死神”なら、屈伏させるのは悪くねぇがな」 そうして小突かれた頭に、彼女が一歩を踏み出す。 その瞬間、彼等を取り囲んでいた男達が彼女に集中砲火と言わんばかりに得物を振りかざした。だが、彼女の姿は全くと言っていい程見えないのだ。 視認出来た際には腕、胸、喉笛などが掻き切られ意識を飛ばされる。まるで残像に殺されているかのようだった。 血雨が土砂降りの如く降り注ぐ。室内に響く雨音は、どれも哀れで虚しく、そして情けないもの。正に断末魔の叫びの嵐。つい先程まで余裕を浮かべていた青年の顔が、みるみる歪んでいく。 そうして数分足らずで足元に散らばった遺体に、青年は戦慄した。 それを愉快そうに眺め、弥一は血で濡れ鼠となった白夜の腰を抱く。その手にある刀を、彼女に突き立てながら── 「踏み込み以外、褒められた点がねぇな。もう少し刃先を踊らせろ」 「はい、お師匠様。精進しますね?」 白夜の無邪気な笑顔が合図だった。瞬く間に青年へと向いた弥一の刃は、大苦無を投げる動作すらさせる間もなく、その首を飛ばしたのだ。 「かませ犬……」 「そりゃ駄犬以外の何者でもねぇな」 「それでもですよ。噛む位はしてあげたら良かったのに」 「雑魚に使う労力は持ち合わせてねぇ」 「女に使う労力はあるクセにですか?」 白夜の視線が滑らかに遊女の遺体へと伸びる。「何だ、嫉妬か?」と、耳を甘噛みして来る弥一に、不愉快そうな表情を溢して。 「屈伏、ね……」 「あん?」 「私はもう、死神じゃないですよ?」 不意に頬へと突き立てられた刃先に、弥一の顔が愉悦に歪む。 挑発的に自分を見上げる彼女の碧眼が、とても蠱惑的に見えたから。 「紅蓮の死神の名は捨てたと?」 「名乗ったこともありません。そんな異名は」 「だが、世の大半はお前をそう呼ぶ。お前の人間としての名など興味もない」 「だったら、貴方が白夜と呼べばいい」 ──私に興味があるのなら、ですけど。 するり、落とされた刃は彼の頬に微かな傷をつけ、血を生む。それを撫でるかの如く舐め、彼女は鬼を地獄(天国)に突き落とすのだ。 耳元で、囁きを死神の鎌にして──びしょびしょに濡れちゃいましたね、身体。と。 弥一の表情がこの上なく愉悦に浸る。耳の輪郭を辿るように這わせた舌。そこで零れた嬌声に重ね、囁いたのは彼女の名前だった。 【了】 二千文字越えちゃった。ごめんなさい/(^o^)\ こういう話好きです、はい。弥一は白夜の悪女的思考を存分に引き立たせ、そして成長させた男だなと。
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