嫌悪感情に救い救われ

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嫌悪感情に救い救われ

▪if章突入編より銀斗×白夜。 ▪日常×鬱。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 『嫌悪』と言う感情を、こうまで抱いたのは恐らくこの女が初めてかもしれない。銀斗は彼女を目の前にして思った。嫌悪感を露にした視線の先、彼女は微動だにせず黙すだけ。以前のような目まぐるしい表情、感情は露と消え、最早廃人同然。 「当然の報いだ。男誑の依存女が」なんて吐き捨てようにも、死人に鞭を打つようで気が引ける。それ位に、彼女が傷つき壊れてしまったのは、さすがの彼でも理解したらしい。 「なぁ、」 「…………」 「あのさ、その……、俺やっぱり帰るわ」 「…………」 「善吉さん達が帰宅したら、こっちに来るように言っておいてくれ」 ひたすら無言で、壊滅的に重苦しい雰囲気に彼は耐えられず、屋敷を後にしようとする。だが、そんな彼の服の袖は不可解な引力に引かれた。 「え……、何?」 自分の袖を無表情で掴む彼女に、苦笑の疑問符。そればかりか、予想だにしなかった出来事に彼は困惑した。まさか寂しいからなんて、また男を、次は俺を誑かす気なんじゃなかろうか……と。銀斗の中で要らぬ推察が回り回る。 彼女からの言葉はない。 だが、袖は変わらず掴まれたままだ。 「何だよ?」 「……お茶、出します」 「いいって。お前と二人きりとか死ぬ程重たいから」 ぴくり、と。僅かな感情も出さなかった表情が動いた。 それを見てしまった彼は、まずった。と。良心に小さな罅が入る。だが、それ以上にーーこの女に気遣う理由が何処にあるのか? と、彼の中で芽生えた疑問。 彼女は最愛の男に振られてからと言うもの、弥一に、善吉に、弓鶴や天助に必要以上に甘えて、生き長らえている。 死にたいってのは、自殺衝動なんてのは結局彼女自身のエゴで、そうさせない為に自分の大事にしてる人達は必要以上に精力を削られてーー嗚呼、死ねばいいのに。そんなに死にたきゃ、自分には止める理由がないから。彼女の身体の傷が一本、二本と増える度に彼等が苦しむ位なら、糾弾した上でその自殺衝動に拍車を掛けてやってもいい。結局、最愛の男に振られても尚、違う他人に甘え、延命を計るこの女が嫌いだ。 彼の中に息吹く感情は、墨を摩るように黒くなっていく。 無理矢理に引いた袖。そうして睨めた先、彼女は大して驚く様子もなく、寧ろ、何処か優しい顔をして彼を目にしまっていた。それに怒気を奪われ、代わりに呆気取られ、彼は口を噤む。 「言ってくれていいのに」 「何を」 「『死にたきゃ死ね』って」 その一言に、彼の表情が一気に歪む。それは先程罅の入った良心が打ち砕かれる程に重たくて、刺さる一言だったから。 次の言葉が出ない。押し黙る彼の顔はとても苦悶に満ちており、彼女はそれを見、微笑した。 座卓越し、そっと触れられた頬に彼は我を呼び起こされてーーそうして彷徨いながら、階段を上るように腕の傷を辿っていく。その先で微笑む彼女に、返す言葉も、表情も全て殺されたのだった。 「感情を殺さないで?」 「感情……? 何のだよ?」 「『嫌い』って言うのも、立派な感情だから」 「……、……」 「死ぬ程、非難してくれて構わないんだ。私に、感情を、生きる活力を下さい」 「そんな安い言葉で俺を懐柔しようって? お前どこの悲劇のヒロイン症候群だよ、気持ち悪い」 「違うよ」 「違わねぇだろ!! お前の自己陶酔に、お前の幸せに俺を巻き込むなって言ってるんだ!!」 「違うって言ってんだろうが!!」 重ねられた怒声に、激昂に、彼は激しく戦いた。 咄嗟に掴まれた胸ぐら。その手が震え出す。久々に見た彼女の感情に彼は心の片隅で鬱陶しがり、そして安堵していた。 まだ、彼女は生きているのだ、と。 「満たされたらっ……、優しさに満たされたら死にたくなるんだよっ……死なれたくないからと懸命に構われても、いつかは終わるって……そう、思ったらっ……満たされた途端、死にたくなるんだっ……!!」 「お前……」 「私の命はっ……私だけの、ものじゃ、ない、からっ……だからっ、だからっ……!!」 その先は滝の如く溢れた涙に呑まれ、聞けなかった。 だが、彼女を忌み嫌う存在だからこそ熟知している彼だけは、彼女の言わんとしてる事を存分に理解出来た。していた。だからこそ、震えたその手を優しく握り、ふてぶてしく笑うのだ。 「随分と生きにくい性格してるな。だから面倒臭くて重たいの理解しろって」 「……優しく、するなっ……」 「してない。お前のことは嫌いだよ、これからもずっと」 「…………」 「嫌いな人間に死ねと言われて死にたくねぇってなるなら、お前はまだまだ元気ってことで……安心したよ」 ーーほんの少しだけな、と。ぽんぽんと優しく乗っかる手のひらに、彼女は嫌悪感を示した表情を隠さなかった。 嫌いもの同士。だけど、だからこそ、理解し合える何かがあるのだと。今日もまた、彼は彼女に教えられたのだった。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 好きの対義語は無関心。嫌悪感も負な感情と言えど立派な感情の一つだと思う訳で。 銀斗は何だかんだ白夜嫌いだからこそ、情無しに彼女を冷静に見れて、且つ人間らしさをなくさず接する事が出来る優しい奴なんだと思います。 多く語る気はないが、うん。白夜も天の邪鬼な部分あるからね、嫌いな人間に死ねなんて言われたら生きてやるよばーかって感じなのかもしれませんね。
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