身勝手な感情が優しさになる時

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身勝手な感情が優しさになる時

▪復讐断罪編より白夜×空吾。 ▪義賊団に白夜が来て間もない頃のお話。 ▪シリアス×日常。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 一仕事を終え帰れば、いつものように呆けた顔で窓の外を眺める彼女が居た。 真っ暗で、月明かりだけが頼りの室内。電気を灯けようにも、やけに湿った雰囲気がそれを許さない。 「何してたよ?」 「息」 「他は?」 「……何も」 彼女の感情を帯びない態度に、彼は溜息ばかりを滴らせる。 確かに強引な手段で手にした彼女だが、こうも愛想無く毎日を共にされると監禁してる気分になって気が滅入る。なんて。 だから、聿志ありきではあるが外出許可も出したと言うのに。 彼女は今日もまた、意義を持たない一日を過ごしたようだ。 「おい」 「何?」 「何か飲むかよ?」 「要らない」 一向に自分に向かない視線に、彼は苛立ちばかりを募らせた。 随分と身勝手且つ傲慢な感情だと理解しつつも、せめて普通に会話がしたい、と。だって、彼女は唯一の自分の理解者に成り得る人間。自分の生涯を賭けた復讐の要、そのものだからーーらしくない衝動に罪の意識を覚えつつも、彼女の手を強引に引き、自分の方へと向ける。 月光に照らされた彼女の眼は、夜空に浮かぶ蒼月のように暗くて、儚くて。 「何?」 「そんなに気に食わねぇか?」 「そんなこと一々聞かなくても解るでしょ?」 棘しかない彼女の物言いに、面白くなさばかりが沸き立つ。 これ以上は、と警鐘を鳴らすが、やはり彼は彼女を放っておく事が出来なかった。細い手首を掴む手が、彼のやりきれなさを雄弁に物語る。 「……何?」 そんな彼の心境に気付いたのかそうではないのか。 彼女は少しだけ優しい口調で言葉を吐いた。 「別に何でもねぇけどよ」 それで我に返ったのか、彼は彼女の手を離し視線を窓に放った。そうして招かれた重苦しい沈黙に、彼は必死に言葉を探す。だが、先に口を開いたのは彼女の方だった。 「一日中外を見てたらね……、」 「あん?」 「ふふっ……太陽がね、眩しくてっ……それで、鳥が飛んでてっ……」 「…………」 ひとつ、ふたつと彼女の輪郭をなぞる雫は、彼からしたら見たくないものそのものだった。噤む口。だが彼女から言葉の続きは無く、そこで途切れてしまった会話。 耳に響く弱々しい嗚咽は、彼に罪悪感ばかりを刻みつけた。 「ふっ、ふふ、……ははっ、」 「……?」 嗚咽が不気味な笑声に変わったのを彼は見逃さなかった。 向けた顔に、伸びてきた手。その指先は、彼の顔に刻まれた刺青を愛撫するように優しくなぞる。 見下ろした先、濡れた碧眼は幸福そうに弧を描き。 「君は優しいのねぇ……」 「そう言われる意味な。まだ何もしてねぇよ」 「……まだ、ね。何かしてくれる気でいたの?」 「別に」 「そっか……」 「泣き止んだなら寝るぜ。だりぃ」 彼女の手を払い、ベッドへと向かう。そんな彼を構う事なく、彼女はまた視線を窓へ、外へと向かわせた。 彼が着替えてる間も、ベッドに入っても、微動だにせずにそうしていた。構っていられない、また明日があると閉じた目蓋。 だが、微かに響いた嗚咽に眠気を削がれる。 「ったく。テメェはよ、」 「!」 面倒臭さを露にした低声に、彼女の身体がびくんと跳ね上がった。思わず両手で塞いだ口。その仕草に、彼は不器用な笑みを溢し、彼女の方へと歩み寄る。 「寂しいってか? だったらさっさとくたばれ」 「く、くたばれって……?」 「寝腐れって事だ、バーカ」 そうして彼女の手を引き、容赦無しにベッドへと放り投げる。 彼女が瞬時に身構えるが、そんなの気にする素振りも見せず彼は腕を枕に寝転がり。 「えっ、と……」 「襲われるとでも思ったかよ? はっ、尻軽」 「ちっ、違っ」 「うぜぇ。さっさと寝ろや」 後頭部を掴まれ、無理矢理寝かされる。彼女の困惑する表情に彼から安堵の笑みが溢れた。それを見、彼女の中で疑問符ばかりが生じる。所詮、解る筈もない。その人間らしい表情を自分にやっと向けてくれた事が、彼にとってどれ程喜ばしいものかなんてのは。 「明日は珍しく暇人だ」 「へ……?」 「お前に付き合ってやるよ、仕方ねぇから」 「付き合う、って……何に?」 「テメェで考えろよ、それ位」 「余計に眠れなくなっちゃう……」 「泣かれるよりマシだ。考えとけ」 「……それで明日、眠たいばかりだったらどうするの?」 「叩き起こす」 「ふふっ、何それ。暇してるの君の方じゃん」 「一日中呆けてる奴よりマシ。あとその君っての止めろや。 馬鹿にされてるみてぇで腹が立つ」 「じゃあ……空吾?」 「いきなり馴れ馴れしい奴だな」 「ダメ?」 「好きにしろ」 軽く額を小突かれ、背を向ける。 「くうご、くうご……、」なんて、自分の名前を復唱する彼女の声を子守唄に、彼は目を閉じた。 ………END………
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