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数えては消えていくなら
▪四章~if章より隼人×奏。
▪暗鬱、猟奇的表現含む。閲覧御注意。
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数えては消えていく。それが愉快。だから歌いましょう、数え歌。一で指が飛び、二で眼球、三で腕。四で鼻が砕け、五、六、七であらゆる臓物が肉片となり、八、九で血抜きが済み、十でその原型を失くす。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……、みぃと言えば猫。にゃあ」
「下品だな」
「何がよ」
「言われなくても解ってほしいもんだが……」
数十の惨殺死体を前に、滴る溜め息。仕事とは言え、毎度これだと気が滅入ると奏は頭を抱えた。対照的に、隼人は遺体を勘定しつつ愉快そう。
「おっ、俺の方が多いわ」
「別に競ってない。それに今更、一人も千人も変わらないだろ?」
「そりゃ確かに」
あどけなく笑って、散らばった肉片をぐりぐりと踏みつける。
終わらない数え歌に、二人が終止符を打てる日は来るのだろうかーー否。そんな日はきっと、訪れない。彼等が死神(白夜)を心に抱く限り、数え歌は終わらないのだ。
▪日常文。
▪四章終盤より隼人×白夜。
▪切ない。
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風が穏やかに靡く縁側で、二人は何をするでもなく暇を潰していた。
「隼人ってさ、」
「おう」
「何で煙草吸うの?」
「あん?」
随分と今更な質問だと、彼は唖然とした。
けれども、目の前にいる彼女は至って真剣。
いつものようにきょとんとした顔で首を傾げ、紅眼を凝視するばかり。
「気がつけば吸ってる以外に答えようねぇわ」
素っ気なく答えた彼に、彼女は「ふふっ」ともの柔らかく微笑んだ。
「格好つけとかじゃないんだねぇ」
「そうする必要ねぇしな、俺の場合」
幸せそうに弧を描いた碧眼と、余裕を魅せた紅眼と……
自然と白夜に伸びた手はわしゃりと頭を鷲掴みにした。
「そうだね……充分にかっこいいからね、隼人は」
照れ臭そうに頭を撫でられ続ける彼女に、彼が恋情を覚えたのはいつの日か。今も冷めやらぬそれに、底知れない安堵を抱く。
「止めないの?」
「煙草?」
「そう、煙草」
「止めねぇよ」
「桜ちゃんの身体に悪いよ?」
「関係ねぇわ」
「……そう、」
然り気無く手を退かれ、向けられた背。
揺らぐ名残惜しさは煙となって宙を漂い、その紅眼から跡形も無く消えていった。
それがまるで、白夜と自分の未来を暗示しているようでーー堪らなくなるのだ。
「止められねぇんだわ」
「へ……」
引き止めるように漏らされた台詞はどこか物憂げで、彼女の爪先が不意に止まる。
「好きなもの程、終わりが虚しい。そんなの身に染みて解ってる事だろ。だから止められねぇんだよ」
そう呟いた隼人は心做しか寂しそうだった。
それがらしくないと思う白夜は一歩を踏み出せず、
結局またその場に……、彼の隣に戻って来てしまい。
「じゃあ、仕方ないよね。そうなら、止めなくていいんじゃないかなぁ」
力無く笑って、空を眺める。
それが隼人の言葉の真意を読んだ上での言動なら、余りにも残酷だ。けれど当の本人も、それを悪意とは取らずに笑うのみ。
「……傍に居ろよ」
「…………」
「あともう少しだけ……傍にっ……」
願うように、求められるように握られた手に彼女は一瞬困惑した。けれども、彼のこんな弱々しい姿を知ってるのも、受け止められるのも、作ってしまったのも、全部。自分だから。
そう握り返した手に、隼人は心底安堵を刻まれ、口角を釣り上げる。まるで子供。こんな何気ない仕草で喜んでくれるなんて……と、そんな風に飾らない彼もまた、この世で唯一人。白夜しか知らない。
だからつい、言葉を引き摺り出されてしまう。
「……宗君に振られない限りは、」
「…………」
「いると思うよ。この街に……、傍に」
虚を映した碧眼は、紅眼を一心に貫いた。本音を曖昧に濁した台詞は彼の恋を密かに掻き狂わした。
これ以上はと、彼女は敬遠のつもりだったのだろう。
けれど、それを刺激としてる隼人にその効果は無くーー寧ろ、逆効果なのだ。
「振られた暁には戻って来い」
「ん……」
「そしたら俺も、人間辞める覚悟をつける」
彼女は解っていた。隼人の言う“人間を辞める”意味を、他の誰よりも、きっと。
「私は、真っ当に生きてる隼人を壊したくない。
好きだもん……、日向の世界でのんびり、幸せそうに笑ってる隼人も」
だから、虚構のままに微笑む。そうすると、彼女を映していた紅眼は退屈そうにそっぽを向いた。
「あっそ」
「うん……」
自然、そこで途切れた会話。
けれど互いに、手を離すタイミングを見失ってしまったようだ。
「それでも俺は、復活戦を希望をするけどな」
「えっ、」
指を絡めながら悪戯に吐かれた言葉に、白夜は思わず拍子抜けした。そんな彼女を見、無邪気に笑う彼はやっぱり純粋な悪鬼だ。
「手離したくねぇから。何があっても、お前と煙草だけは」
見る見る優しくなる紅眼(色)に染められていく頬。
「煙草と同列に扱わないで欲しいけどね」
不貞腐れるように反らされた視線に、またもや彼は悪戯に声を上げて笑う。
離せずにいる手。内罰的な彼女は、彼に感情を与えてしまった罪から逃れる事が出来ずいるのだった。
END
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