18人が本棚に入れています
本棚に追加
狩りが出来ない猫でも
▪過去編より隼人×白夜。
▪純愛×日常×ほのぼの。
━━━━━━━━━━━━━━━
穢ればかりが蔓延するこの世界で、彼女だけは雨上がりの青空のように綺麗だったから。犯し、重ね続ける罪に苦しむその姿さえも、愛おしかった。
「行くぞ」
隼人が掛けた声に後追いする返事はない。無惨に散らばる死体に憂いた視線を注ぐだけの彼女を見、彼は溜息を滴らせた。
「濡れ鼠ね……」
「あん?」
「真っ赤な濡れ鼠」
彼女は眺めた遺体に苦笑しながら、彼に視線を返した。
「鼠は駆除される運命なのかな……」
意味深長な問い掛けに、彼は返す言葉を見つけられなかった。
「ねぇ、隼人」
「何だ?」
「鼠がいない世界は、本当に綺麗かなぁ?」
「…………」
「私達が手を汚してまで、猫や鼠取りになる理由って本当にあるの?」
例えは軽いものでも、重たい問いだ。と、彼は誤魔化す言葉を模索する。だが、彼女はそれを待つ事はしなかった。
「私はね、鼠。嫌いじゃないんだ」
「煩わしいだけだろ、あんな害獣」
「ははっ……でも、鼠がいないとーー」
この世界のゴミは、半分以上が溢れ返ったままだよ。
そう握られた手に、彼は不敵な笑みを溢す。
「ゴミ、ねぇ……」
「そう、ゴミ……この世の、不要物……」
まるで私、みたいな。
その言葉を否定するかのように、もしくは続かせない為に、奪った唇。刹那、絡み付くように抱き着いて来て、目に涙を溜める彼女に彼は誤魔化す言葉を奪取されてしまった。
「猫になりたい……」
「いきなり何だよ?」
「猫だったら、たくさん隼人に愛してもらえるから。今よりいっぱい、いっぱい……可愛がって貰えるから」
「猫だって言ったのは自分だろ」
「ううん……私は鼠を狩る事に躊躇しちゃうから……生きてるものを獲物には出来ないから。ダメなんだ」
「俺はそんな猫でも好きですけどね」
絆されて、絆され続けて、それでも足りなくて。求めてしまう優しさに、彼は応え続ける。彼女のその場しのぎを許さない程の甘えっぷりは、正に猫そのものだった。
最初のコメントを投稿しよう!