狩りが出来ない猫でも

1/1
前へ
/29ページ
次へ

狩りが出来ない猫でも

▪過去編より隼人×白夜。 ▪純愛×日常×ほのぼの。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 穢ればかりが蔓延するこの世界で、彼女だけは雨上がりの青空のように綺麗だったから。犯し、重ね続ける罪に苦しむその姿さえも、愛おしかった。 「行くぞ」 隼人が掛けた声に後追いする返事はない。無惨に散らばる死体に憂いた視線を注ぐだけの彼女を見、彼は溜息を滴らせた。 「濡れ鼠ね……」 「あん?」 「真っ赤な濡れ鼠」 彼女は眺めた遺体に苦笑しながら、彼に視線を返した。 「鼠は駆除される運命なのかな……」 意味深長な問い掛けに、彼は返す言葉を見つけられなかった。 「ねぇ、隼人」 「何だ?」 「鼠がいない世界は、本当に綺麗かなぁ?」 「…………」 「私達が手を汚してまで、猫や鼠取りになる理由って本当にあるの?」 例えは軽いものでも、重たい問いだ。と、彼は誤魔化す言葉を模索する。だが、彼女はそれを待つ事はしなかった。 「私はね、鼠。嫌いじゃないんだ」 「煩わしいだけだろ、あんな害獣」 「ははっ……でも、鼠がいないとーー」 この世界のゴミは、半分以上が溢れ返ったままだよ。 そう握られた手に、彼は不敵な笑みを溢す。 「ゴミ、ねぇ……」 「そう、ゴミ……この世の、不要物……」 まるで私、みたいな。 その言葉を否定するかのように、もしくは続かせない為に、奪った唇。刹那、絡み付くように抱き着いて来て、目に涙を溜める彼女に彼は誤魔化す言葉を奪取されてしまった。 「猫になりたい……」 「いきなり何だよ?」 「猫だったら、たくさん隼人に愛してもらえるから。今よりいっぱい、いっぱい……可愛がって貰えるから」 「猫だって言ったのは自分だろ」 「ううん……私は鼠を狩る事に躊躇しちゃうから……生きてるものを獲物には出来ないから。ダメなんだ」 「俺はそんな猫でも好きですけどね」 絆されて、絆され続けて、それでも足りなくて。求めてしまう優しさに、彼は応え続ける。彼女のその場しのぎを許さない程の甘えっぷりは、正に猫そのものだった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加