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悪鬼咲く
▪朝陽if章~より、奏。
▪暗鬱。暗殺描写含む。
▪ビバ500文字。←
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悪鬼になりたい。死神が恋した相手がそれならば。
「たっ、直ちに得物を下ろし、両手を上げろ!」
震えたように吐かれた警告は、情けなく辺りに響き渡った。黒ずくめの格好に、自身の身の丈程の戦斧を握る男。その足元には数体の遺体が転がっており、先の先にも幾つもの見るに耐えないそれがあった。
偶然遭遇してしまった事件とは言え、自分は誇り高きセリオーソ自警団の一員なのだと、青年は走る緊張や不安を殺して、銃の安全装置を外した。
「どうした? さっさと得物を下ろして、此方に従え」
冷や汗が青年の頬を伝う。何故なら、目前の男は得物を下ろす気配が皆無な上、焦る様子が一切無いからだ。
「従う理由はない」
「何だとーー」
男が振り返った刹那、戦斧が手離された。だが、それを視認した際に青年の意識は半分以上が闇に引き摺られていた。
「かっ、奏、隊長っ……? どうして……?」
「すまんな。正義なんて、地底に放り投げたんだ」
死神に恋した、あの日から。
二発目の銃声は男の絶望を安堵に変えた。彼女を守る為ならば、自身の部下さえも踏み台に……悪鬼の蕾がまた一つ、血を養分に綻んだ。
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