触れた指先から始まる物語

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触れた指先から始まる物語

▪朝陽×感情喪失白夜 ▪日常文。ほのぼのきゅん。 ━━━━━━━━━━━━━━━  無性に寂しくなって、どうしようもない時だってある。  それを伝えれば、素直に吐き出せば、どっぷりと甘やかしてくれるであろう人が目の前に居ると言うのに──もっと傍に行きたい、と……そう願うだけで、足は竦んで動かない。  爪先はいつだって素直に彼へと向くのに、それを言葉にすら出来ない。そんな臆病な自分が嫌いだ。 「ん、月之宮か……どうしたよ?」  ふと触れた指先に、肩がビクッと跳ね上がる。見上げた先、底抜けに明るく淀みない笑顔を向けてくれた彼に、声を返せず塞がるままの口。 「ははっ。相変わらずだな、お前さんは」  くしゃくしゃと撫でられた頭に、切情や寂寥感が刻まれるのは……『気付いて』なんて思ってしまうのは何故── 「もっと近くに来いな」 「!」  片腕だけの抱擁。そうして、梳かすように弄ばれる髪。まるで宝物を扱うように扱われるそれに、鼓動が息を吹き返したように早くなる。 「ん~……俺はやっぱり、髪を結わない方が好きだわ」 「そう……」 「あの雑草頭、お気に入りなの?」 「分からない……」 「はははっ……何だそれ。あんなめんどくせぇセットしてるんだ。それなりのこだわりがあるかと思ってたけど?」 「ああしてると、不安が溶けるから……」 「それは何でな?」 「言わない」 「じゃあお前さんは今、不安だらけ……っと」 「違う」 「ふぅ〜ん。ほいじゃ、安心してるのな?」 「……そうかもしれない」 「ははっ……じゃあさ、」  ──このまま一生、結わせねぇから。  指が離れる寸前、耳元に掠れた優しい低声が落ちた。  ああ、やっぱり、この人は私の描くお日様……太陽そのものだ。  だって、人を優しく、自然に包み込むのが得意な人。余すことなく憂鬱を照りつけ、溶かしてくれる人だもの。 【了】 ━━━━━━━━━━━━━━━ 前頁の話にもあったように、複雑な事情で白夜は宗太郎と同じ髪の結い方をしています。朝陽は鈍いようで、意外にこういうふとした事で鼻が利く男なんだと思うんですよね。 だからこうなるのかな、と。
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