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無情
▪過去作。四章より遊女×弥一
▪ 切ない。
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色なんて持たない男だと思っていたのに。
最近の彼は色がある。艶だけで良かったのに、色があるから。私は本当に惨めな女に成り下がったのよ。
「ねぇ、もうちょっと居たらいいじゃないの」
首筋をなぞる指に、面倒臭そうな表情を浮かべ布団を出る。私なんて、行為が終われば不要物と言っているかのような仕草。
「弥一、」
「阿呆が待ってる」
着替えてる時ですら、視線を合わそうとしない。
それはこの部屋を去るまで、ずっと。ずっとよ?
「阿呆って……どうせ、女でしょう?」
「だとしたら何だ?」
「誤魔化す位、出来ないの?」
「その必要が何処にある?」
視線が合った、と、思えば。
いつもの人を小馬鹿にしたような嘲笑。けど、この笑顔こそが、彼らしさでもあって。誰よりも、愛していたのに。
「貴方に本命なんか要らないでしょう?」
「勘違いもいい所だ。恋情に浮かされる思考は皆無よ」
「だったら、何で?」
「俺がいないと、地獄(天国)にも行けねぇ女だから――」
放っとけねぇのよ。
らしくない言葉、らしくない優しい顔。
そんな態度で待ってる女の所に帰る、なんて。らしくなさ過ぎるのよ。
「名前は……、」
「あん?」
「待ち人の名前は、何て言うの?」
「……白夜」
そうして、別れの挨拶も無しに襖を閉め、去って行く。
色んな男を見て来たわ。けれども、弥一。
貴方はきっと、一番無情な男よ。
だって、良くも悪くも嘘をつけない。素直で、自分を誤魔化す事を知らない男なんだから。
……END
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そうだね、遊女さんの言う通り。
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