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始まりの場所で漂う想いは、言葉にならないばかりで
※四章終盤より隼人×白夜。
※切ない。
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空はこんなに明るいのに、いつだってこの場所だけは日に照らされる事がない。
そんな鬱蒼且つ静謐とした場所で眠る彼に、白夜は手を合わせる。その真後ろには、煙草を吹かし退屈そうな表情を浮かべる隼人がいた。
毎度ながらに大層御立派な墓ですこと。と、嫌味にもとれる嘲笑を溢して──ゆらゆらとした煙が線香と同じように宙を漂い、空へと消えて行く。
「千里様、次は冬に……命日に来るからね」
振り返った彼女の微笑は、心做しか寂しそうだった。俺がいるのに……と、つまらない情動が隼人をもやつかせる。
それを紛らわすように指ピンで飛ばした煙草は墓に見事命中。そうして、彼は無邪気に笑った。「駄目だよ、そんな事しちゃ──」と、吸殻を拾いに行く彼女の頭を抱えて。
「ん。どうしたの……?」
「俺がいるよ。千里の分も……ずっと、傍に」
「それ悟さんが聞いたら怒るよ?」
「関係ねぇよ。怒らせとけ」
「ふふっ、隼人のばーか」
そう言いつつも、無邪気に背へと腕を回してくる白夜に幸福が溢れ落ちる。
勢い任せでしたお姫様抱っこ。あどけなく自分を見上げる彼女に柔和な微笑を返し、彼は歩き出す。
それはふたりの始まりの日──あの吹雪の夜を彷彿させるかの如く。
「ねぇ、隼人……私のちょっと困った話、聞いてくれる?」
「おー、お前の話なら何でも喜んで」
「ふふ。じゃあ、お言葉に甘えて」
「おうよ。好きに甘えろ」
「んとね、私ね、千里様の墓前に立っているとねっ……
いつも隼人が迎えに来てくれるが気がしちゃうの。昔みたいにさ、『何してんだ餓鬼』って……変だね、へへッ……こんなの、良くないのに……」
やけに申し訳無く笑む彼女に、鬱陶しい程の感傷を植え付けられる。
それなら迎えに行く必要が無い位、傍に居ろ。なんて、白夜を身勝手に手放した彼が今更、言える筈も無く──言えない言葉だけが宙を舞う。何て歯痒くて、虚しいのか……
これこそ、虚空だ。そう滴る溜息と、下がる眉と。
「隼人?」
「あん?」
「命日もさ、こうやってふたりで……一緒に来られたらいいね?」
そこにいつもの調子で返事が出来なかったのは何故なのか。
それはきっと、彼女がまた孤独の道を歩むことを頭の片隅で不安がり、恐れていたから──白夜は形式や束縛で縛れるような女じゃない。そして、今となっては昔みたいに自分とふたりだけの世界を見てはいないから。
(はっ、俺も奴の墓前に立つべきか……)
──そうしたらお前は俺を迎えに来て、一から始めてくれるのかよ?なんて……また一つ。彼の想いが宙に舞った事を白夜は知らない。
……END
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二人の本当の始まりはいつだって、千里が亡くなってから墓前で動けなくなった白夜を隼人が迎えに来た、あの吹雪の日から。
うん、こんな風に優しい隼人は白夜しか知ら(ry
また始まらないですかね、この二人←黙
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