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「お父さん? どうしたの? ……ご飯不味い?」
「ん? あぁ……いや、そんなことはない。大丈夫だ」
ぼけっとしていたせいか、珍しく美和子に話しかけられた。どこか心配そうな顔で俺を見ている。
「しっかりしてよ。もしかして、この前の横断歩道でのこと、まだ考えてるの?」
「違う」
思わず食い気味に否定してしまった。こいつはこういう図星を突いてくる所が、本当に……誰に似たのやら。
「え、違くないでしょ。いつもより浮かない顔してるもん。お母さんのお墓参りが近づくといつもそうだけど。あの横断歩道通る時もそうだし。もう……あの時私が止めてなかったら、お父さん今頃死んでてもおかしくないんだからね」
小骨が喉に刺さったみたいに言葉が出てこない。目を逸らす。
「あんまりずっと引きずっていると、お母さん困っちゃうよ?」
「……忘れろって言いたいのか?」
カチン、と箸が皿に当たって甲高い音を立てる。
「……そういうわけじゃないけど」
「お前に何がわかるんだよ。あいつといた時間なんて、ほとんどねぇだろ。だからそんな平気な顔してられるんだよ」
あぁ、言っちまった。言い終わった瞬間、後悔の念に駆られたが、意地っ張りの性分が邪魔して、訂正する気にはなれなかった。美和子は顔を上げると悲しそうな顔で俺を見た。
「確かにそうだけど、それを言うのはひどいよ! だったらお父さんはどうしてお母さんのこと今も引きずってるの。私よりずっと長く一緒にいたのに、お母さんに何もしてあげなかったことを悔しがってて、一体何になるの。前を向きなよ! ……お母さんはもう、いないんだから」
さっと、体の中からこみあがってきたものを感じてあいつを見た瞬間、美和子がびくりと怯えるのがわかった。……猛烈な怒りで、握った拳が震えていた。わかってる、わかってんだよ、そんなことは。唇を噛む。美和子はどこか気まずそうに目を逸らした。
「ご馳走様」
逃げるようにテーブルから逃げ出す美和子を見送って、俺は震える拳をぐったりと下ろした。……また、怖がらせちまった。また、余計なこと言っちまった。大きくため息をついた。……ごめん。……いつもこうだ。だから、美和子との距離が縮まることもないんだろう。不器用にも程があるな。自嘲が零れる。
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