終わりと始まりから

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 小野宮朔は一年の中期から、学園高等部の生徒会長という立場で生徒をまとめていた。  強気で何にも臆することなくただ前を向き、その見目の良さと言葉巧みな発言、人を惹き付けるカリスマ性が備わっていた。  唯一、彼が持つ意外性は、家柄が一般より少しだけ裕福な程度で、庶民的な心持ちがあるという事であった。裕福な家庭ばかりの子息が通う学園で、中流階級に加えて一年の中期から生徒会長というのは、史上初とも言える。  彼は、高級な茶菓子ではなく、ひとつ十円ほどの駄菓子を好むような生徒で、手間の奥深さを知っていた。  自身で何かを作ること。自らの力で何かをするという事、物の大切さを理解し、その楽しさを伝えてきた。  それらが、学園にいる子息たちの興味と関心をよび、彼が発案したイベント事などは必ず成功するほど、たしかに彼にはその力があった。ゆえに、彼は生徒会長として認められ、人気を得たのである。  人柄ひとつとっても、接しやすく話しやすく、決して歴代の生徒会長たちのように遠い存在ではなく、学園のいち生徒として、友人も多い。  人望がある、ということこそ、彼の魅力を最大限生かすことに繋がっていたのである。  彼は、自身が楽しいと思ったことを、他人を巻き込んでやり遂げる。ただ楽しみたい、という気持ちだけで、人を笑顔にする原動力にしたのである。  しかしそれは一年前。高校二年生の中頃。  その時、突然現れたたった一人の転入生によって、小野宮朔の魅力はその殆どが失われ、残ったのはただ生きている人形のような彼だけだった。  友も、仲間も、何も関係ないとも言える彼を悪として処刑台へと立たせた。  小野宮朔以外の生徒会役員に、風紀の副委員長含む半数、転入生のクラス担当教員など、生徒に人気がある有名な生徒ばかりが転入生に恋をしたのである。  それは甘い青春などではなく、まさに奪い合いとも言えるものだった。嫉妬に狂い、盲目になり、ただ一人のためだけに我を忘れるような、愚かで浅ましい、清らかさなどの欠片もないものであった。  いや、同性に恋をしたなどというものは、そもそも世間ではそれ自体がおかしく見えるのかもしれないが、ただ誰かに恋をする、という甘さがそこにはなかった。  弱肉強食の理のような、酷く歪んだものにも思えた。  
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