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「仲介役も複数いるし、一度だけの人もいる。運良く長く続けてる人に会えても、たぶん二度目はない」
「確かに用心深いな」
「そう、探られないためにね。変装してれば誰だか分からないし、一度だけなら余計に」
「厄介だ」
「本当。長くても三年間で変わるから早ければ早い方がいいんだけど、仲介役をやる人は大抵、というかここの学園生徒は頭の回転が早いのが多いから、よほど甘い人じゃない限り、かなり難しい」
平川は困ったように息を吐き出した。
目的の中で関わっているのか、途中入学の身としては中々辿り着けないのだろう。けれどそれでも、ここまで色々と知っているとすれば、平川はかなり情報収集がプロであることを思わせる。
もし文也が仲介役と直接交渉して特長や声などを聞いていても、それを第三者に伝えるのは難しい。変装しているなら尚更だろう。
委員長の仕事が無駄にならなければいいが。
「と、いうのが、大体の情報通や風紀がこれまで知ることが出来た情報」
平川の得意気な笑みに首を傾げた。
「これから先は、たぶん僕しか知らない確実なものだから関係者以外漏れないようにお願いしたい」
「ああ、わかった」
もとより関係者以外に話す理由も必要性もない。平川が得ている情報はかなりの価値がある。それが漏洩してしまえば、平川にとっても俺達にとってもデメリットしかないと言える。
「まず手っ取り早く核心から行くと、長岡さんは仲介役の一人でもある」
「……」
「あまり驚かないのを見ると、予想はしてたみたいだね」
長岡文也が仲介役、というのは、確信や予想ではなくただの憶測だった。可能性のゼロに近いもので、頻繁に取引をしていて買い取る側だけかと思っていた。
「彼は一年の頃から仲介役をこなしているベテランって言っていい立場にいる。でもたぶん、多くはない。足がつくからね」
「…だろうな」
「だからひとつの仲介場所としてみるのが適当。外界に学園の情報を流している仲介役ではない」
学園の情報を外界に流しているのは、各学年に一人。三人の仲介役がいて、それぞれに繋がりはないという。
仲介役同士の繋がりはないが、学園生徒だけで行われているのは確実で、生徒以外には関わりがない。
仲介役をしている全ての生徒が変装しているか、何かしらで身元を悟られないように動いている。
文也がその一人なら、強力な薬を手にする事は容易くなる。
「仲介役の生徒は引き継ぎの形で今まで仲介役だった生徒の推薦なんだ。やるかやらないかは本人次第だけど、仲介役が外界に信用できる次の仲介役のアドレスを教えて、外界から連絡がくる。それで契約する。連絡手段はメールだけ」
外界と仲介役との間で行われる連絡は、不定期なうえに自動削除されるメールが外界から送られてくるらしい。
受注メールと呼ばれているそれは、しかしアドレスは一度発注で返信したらもう使用不可。送ってもエラーで返ってくるという。
自動削除されてしまえば証拠は残らない。配送もセキュリティを通り抜けて届けられる。
中身は有名な菓子や雑貨屋の包装で、正規のものと変わらないらしく、配達物チェックだけで疑うことはまずないという。
荷物が届いた場合、安全のため赤外線などのスキャナーにかけられる。だが中身は雑貨。液体の場合アロマオイルなどと変わらないそれは簡単に通過する。粉末や錠剤は特に怪しまれやすく、ここで出回っているのは殆どが液体。
それ以外で届くときは、有名どころのサプリメントと称してあるのだという。
平川のあまりの詳しさに、仲介役をやったことがあるのかと聞くと、平川は「あんな目立ってたら出来ないよ」と笑った。
「僕は外界側で少し手をつけてたんだ」
「そうか、なるほど」
ならば詳しいわけだ。
情報を得るための行動は惜しまない平川の大胆さには驚くが、身元を知られないという徹底さの方に脱帽するほど。
同じ年でプロであるのは、それだけ平川は壮絶な人生を過ごしているのだろう。転入生としての平川真澄は、ただ偽りのひとつに過ぎない。大した演技力だ。
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