22 嫉妬に狂う

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22 嫉妬に狂う

「遅い! 遅すぎるわ!」  悪党に襲われたロベリアが無事に家へ着いた頃。アルニタク宮殿では、持ち前のヒステリーを発揮したフォセカが部屋で暴れていた。 「玩具(おもちゃ)で遊ぼうと思っていたのに、なんで来ないのよ!」  玩具、つまりロベリアのことである。彼女を襲った悪党は、やはりフォセカが仕組んだものだった。トントン、とフォセカの部屋がノックされる。 「フォセカ様」 「いいわ、入りなさい」  右腕を負傷した一人の従者がやってきた。 「……その腕はどうしたのかしら? あなたは悪党共の見張りをしていただけのはずよ?」  フォセカの顔が暗くなり、右腕の傷をさらに(えぐ)るような目をした。 「キファレス家の老執事にやられました。遠くから見張りをしていたのですが、気づかれてしまったようで……申し訳ございません」 「そう。で、ロベリアは?」  フォセカは、従者の傷の治療などするつもりはない。彼女にとって、従者など捨て駒にしか過ぎない。壊れたら捨てる、ただそれだけだ。 「悪党共がゼラ・キファレスによって殺害されました。よってロベリアは助けられて……」 「助けられたですって……?」  フォセカの重々しい殺気を感じ取った従者は、慌てて床に頭を付け懺悔した。 「お許しください、フォセカ様! 大変、大変申し訳ございません!! どうか命だけは、命だけは!!」 「ふふ、命?」  フォセカは従者の頭を、足で踏み潰した。 「命は生き物にあるの。駒のあなたに最初から命なんて存在しないわ」  フォセカは、何度も何度も靴のヒール部分で、蜂の巣になるようなほど従者を突き刺した。 「ふん。ケイジュ、来なさい」  フォセカに呼ばれた瞬間、扉の向こうに一人の男が姿を現した。 「…………」  ケイジュと呼ばれる男は、フォセカの元へ無言で近寄った。足音も一切立てない。 全身が闇に溶けてしまいそうなほど真っ黒の執事服。藍鼠色をした髪は、高い位置で一つ結びにされ、腰まで長く伸びている。 「はぁ……返事ぐらいしなさい? まぁいいわ、コレ要らないの。捨ててちょうだい」 「…………」  跪いた従者の髪を引っ張り、顔を上げさせる。 「ケイジュ、おまえ……仲間だろ……!?」  ケイジュの瞳孔が開いた。 「……なか、ま……?」 「なんだ、おまえ喋れるのか!? そうだ、同じ従者だろう!?」 「……仲間……なんて……いらない……」  ケイジュは胸ポケットから小剣を素早く取り出し男の首筋に当てる。 「ケイジュ待ちなさい! あなたここで()るつもり? やめてちょうだい、気持ちが悪いわ」 「…………」  ならばどこで殺せばいいのかと、黄土色の瞳はフォセカに目で訴えた来た。 「……何? 宮殿以外ならどこでもいいわよ! ケイジュ、あなたも気味が悪いわ! ソレを連れてとっとと出て行きなさい!」 「…………」  ケイジュは扉から出ることなく、従者を引っ張ったままベランダから飛び降りた。引きずられる従者は、呻き声を上げている。この先は森だ。恐らく、従者はそこで殺され、存在を抹消される。 「……本当使えない人間(モノ)ばかりだこと。ケイジュも……お掃除係としてはちょうどいいわね」  騒がしかった森も一瞬にして静まりかえった。腕のいい暗殺者というのは、相手に叫ばす余地も与えず、一瞬にして息の根を止めることができる。 「……にしても、ゼラ・キファレス……居合わせたのなら、悪党に罪を擦り付け、ロベリアを殺す絶好の機会でもあったはずよ!! なのにどうして助けたのかしら!?」  フォセカは、自分が下した命令を果たさないゼラに、痺れを切らしてきていた。   「……! まさか、あのゼラ・キファレスまでもロベリアに魅了されて……」  かつてロベリアが王女だった頃、容姿端麗な姿だけでなく、勉学も話術も達者、そして天真爛漫な姿に誰もが彼女に魅了されていた。諸国の王子も、貴族も、そしてアルニタクに仕える者でさえも彼女を贔屓していた。同じ王女でありながら、フォセカのことは誰一人見向きもしない。  フォセカがロベリアを虐げる理由、それは狂いに狂った嫉妬だ。   「いいえ、あの女のどこがいいのかしら……! 醜い、醜いだけが取り柄の女よ! 絶対に絶対に許さない……私が世界で一番可愛いの……私以外いらないわ……王女として輝くのは私よ!!!」 ──ローズ、次はないわよ。そう、ゼラ・キファレスの命も。
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