712人が本棚に入れています
本棚に追加
27 青い夜
「……ゼラくん、冗談が過ぎるよ」
「この機に及んで冗談だと思うか?」
「だっ……だってそんな……レポリスに援軍を出さなかった血も涙もない反逆国家のピスキウム家が、そんな……嘘だ」
――反逆国家……そうよね、相手からすればきっとそう見えるのだわ……
ロベリアが恐れていることが目の前で起きている。ピスキウム家が復興し女王が帰還となれば、リトのように過去の執念を持つ者からは忌み嫌われ、反撃されることもありえる。
「ピスキウム家が援軍を出していれば、父さんも母さんも妹も死ななかった!!! ……人殺しの家がロベリア様の家なわけないじゃない……そうだとしたら僕は……気持ちが追いつかない」
――…………かける言葉が見つからないわ
「だろうな。たが、真実だ。ロベリアは次期女王様にあたる。……リト、俺がピスキウム家にお世話になっていたのは知っているな?」
「……! 僕が調べていたの知ってたの……!?」
リトがキファレス家に連れられて数年経った十四歳の時。当時の戦争について調べ上げていた時にキファレス家のことを知った。
「あぁ。おまえが寝ている俺を殺そうとしていたこともな」
殺人犯の共謀者ともなる相手に育て上げられていたのだと、絶望が襲い掛かり復讐心に支配されたリトは、その日ゼラを殺そうとしたのだ。
――あのリトがゼラを……?
「……起きてたんだ……そりゃそうだよね。ゼラくんだもん……」
「扉に入る前から気づいていた。当時はまだ隙がありすぎだったからな」
はははっと小さく笑うゼラ。小さかった頃のリトを思い出しているのだろう。しかしリトの笑い返す声は聞こえなかった。
「どうして……僕の首を刎ねなかったの? 僕はゼラくんを殺そうとしたんだよ!?」
「……殺せるわけないだろ」
「どうして!」
「それはおまえも同じだろう? どうして俺を殺さなかった?」
憤りを露わにするリトと、それを包みこむように優しく返すゼラの声が、ロベリアを切なくさせた。ロベリアはぎゅっと胸ぐらを掴み、天井を見上げた。
――私が泣いていいはずなんてないもの
涙を堪えれば堪えるほど喉が熱くなり、鼻の奥がつんと痛くなる。
「……殺せなかった……怖かった……ゼラくんを失うことが……」
「リト。俺はおまえに今を生きてほしいんだ。過去を忘れろだなんて言えねぇ。俺も自分の犯した過ちも、リトの想いも背負って生きていくつもりだ」
――ゼラ……
「…………」
「だがな、俺はピスキウム家に助けられた。ローズ様を守ると誓った。もしおまえが俺でなくローズ様に剣を向けるなら、俺はおまえの首をここで刎ねる」
ゼラのその声は本気そのものだ。ロベリアに敵対する相手は、たとえ家族同然の人間だろうと容赦しないのだろう。
「…………。もう殺せるわけないよ。ゼラくんのこともロベリア様のことも、僕は大好きだ」
「それも知ってる」
「本当に大好きだなんだ……でも……でもごめん! 今日は帰る!」
ドアに向かって勢いよく足音が近づいてくる。
――見つかっちゃう!
ロベリアは立ち上がり、その場から去ろうとしたが足が痺れて動けない。ドアが勢いよく開き、リトと目が合った。気まずい雰囲気が漂う。
「ロベリア様……! ……ごめんなさい!」
「リトっ……!」
リトは勢いよく走り去った。肩に乗っているフクロウは、首を斜め後ろに回転させ、ずっとロベリアを見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!