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33 明かされてゆく真実
「到着いたしました」
宮殿の門前に馬車が止まり、ゲンテが車内の扉を開ける。先に降りたゼラがロベリアに手を差し出す。
「何よ」
「何って、降りるんだろ?」
「だからその手よ」
「レディをエスコートして何が悪い? 今日は俺の婚約者として、淑やかに振舞うんだな」
ゼラを凝視し、大きく溜息をついた。今日ばかりは仕方がない。令嬢として相応しい言動をこなすことにした。
「あら、ありがとう。ゼラ様」
「……似合わねぇな」
「何か言ったかしら? ほほほほ」
差し出されたゼラの手を思いっきり握り潰す。
「悪かった、悪かった! ……じゃゲンテ、行ってくる。頼むな」
「かしこまりました」
一礼したゲンテはどこかへ去っていった。
「どこへ行ったの?」
「さぁな。ゲンテに任せてある」
ゼラが左肘を曲げ、ちょんちょんと合図をする。腕を組めということだろう。門番が見ている。恥じらいを捨て、そっとゼラの腕に触れた。服の上からでも、ゼラの筋肉質な腕を感じ取れた。
――いざ婚約者らしく振舞うと恥ずかしいわ……
「ゼラ・キファレスと婚約者のロベリアです。本日はご招待いただき感謝いたします」
門番に声をかけると、「ひぃっ」と悲鳴を上げた。ゼラの非道な悪評はまだ王宮内で噂されているのだ。
「は、はい、どうぞ中へお入りくださいぃぃっ」
「……どうも」
門番の確認を経て、二人は宮殿までの通路を歩く。
「……ところで、ゲンテって私が知ってる執事とは全然違うんだけど、何者なの?」
「さぁな。俺が出会った時はすでに今のゲンテだ」
執事としてキファレス家のことはもちろんのこと、剣術も凄腕だ。情報もどこからか仕入れてくる。ロベリアは知らないが、先日の悪党の死体処理でさえも卒なくこなしている。
「ただ、五万といる従者の中で、ラークス国王が人目置いていた人物だ。何かあるとは思っている」
「聞いたことはあるの?」
「一度だけな。ただそのことに関しては口を割らない。ただの執事だと答えるだけだ」
「そう……」
何かを隠しているのだろうか。それとも本当にただの執事なのだろうか。ロベリアはゲンテに対する謎が一つ増えただけだった。
「まぁ何にせよ、ゲンテはゲンテだ。過去に何があろうと関係ない」
「……分かったわ! きっとシェフよ! あんなに美味しい料理が作れるんですもの!」
「おまえはまたそうやって食い意地を張る……。お、着いたな」
宮殿への大門が開かれた。ロベリアを揺るがす運命の扉だと彼女はまだ知る由もない。
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