よみがえれ大地

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「では、第35回目の大地再生実験を開始する」  神妙な面持ちで大筒を担ぐと博士は白衣をひるがえしながら玉を射出した。  甲高い音を白い奇跡に変えながら飛んだ玉は、しかし宙で裂けるだけで、雨を降らすことはなかった。 「助手、どうだったね!」 「聞かなくても失敗です」 「データは取ったかい!」 「はい、一応取りました」 「なるほどよこしたまえ」  大筒を置いて、私の出した資料を半ば強引にひっつかむとしげしげと目を落とす。そして眉間にシワを寄せて押し黙った。  私と博士は、目の前に広がる乾いた土地をよみがえらせるため、ずっと研究をしていた。  方法は空気中の水分を連結しやすくするものだったが、ここ何回はそれではうまくいかず、手を変え品を変え、何度も挑戦していた。  改善した方法も次には効かなくなる場合もあり、気を抜くと大地の乾燥はさらに進んだ。  正直、私は半分諦めていた。  一度潤いが失われた大地を復活させ、また美しい自然に戻すことに。  20回目ぐらいまではそれとなくうまくいっていて大地も生命の息吹に溢れていた。  しかし30の大台を超えるとそれも難しく、徐々に乾燥の占める割合が多くなっていった。  博士はいつも自信満々ではあるが、たまに「あと2、3回の内には方法を見つけねば」と愚痴をこぼしていた。  それは私もそう思うが、いやしかし。 「助手、ここのポンポコピーピーメーターの変動は本物かい!」 「はい、その下のサラダくたくた値も低いですし、隣の深夜の引き籠もり大絶賛係数は基準値以上です」 「うむ! ではアクビ多過ぎ現象はどうだ!」 「はい、寝起きのアバラ痛いよ症候群と共に観測できています」 「なるほど! それは素晴らしい!」  大げさに納得すると残った玉を開けて何やら調合を始めた。  私は隣に座って黙ってそれを見つめた。  あくせく調合して、せっせと玉を丸める。 「よしできた!」  大筒に玉をセットして博士は胸を張った。 「観測の準備を始めます」 「今回は助手がやりたまえ!」  そう言って大筒を差し出されたのでなんとなく受け取ってしまった。 「わかりました。では行きますよ」 「おおっと、ちょっと待ってくれ!」 「え、どうしてですか?」 「いやぁ、わかったのだ!」 「なにがでしょうか?」 「今まで足りなかったモノだよ!」 「はあ」 「それは愛だ!」 「意味がわかりません」 「うん! さっきの足の裏かいかい変数と上腕二頭筋もっこり装置を見て直感した! やはりこの実験には愛が必要だ」 「いや、さっぱり意味がわかりません」  もうさっさと玉を撃ってしまおうと大筒を構えると、 「ところで前から思っていたのだけれど僕は君のことが好きみたいだ!」 「え! それってどうい――」  聞き返した私の唇に、博士は自分の唇を重ねてきた。  びっくりして大筒のトリガーを引いてしまう。  発射された玉は空で花開くと、その勢いのまま大量の雨となって大地を潤した。 「最近、キレイになった?」 「わかるぅ? 化粧品変えたの! きっと今も肌の妖精が頑張ってさらにキレイにしてくれてると思うわ」
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