太陽の台地

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太陽の台地

「ええと、この道でいいんだよな?孝明」  響はハイエースのハンドルを握りながら助手席の僕にそう語りかけてきた。音響の仕事をしながら照明の工夫をしてくれたり遠出の時は運転をしてくれたりしてくれて、本当に頼りになる。 「ああ。太陽の台地はここからまっすぐ行ったところだよ」  僕はスマートフォンの地図を一応確認してからそう答えた。今日のロケでは主に3つの場面の撮影を行う予定を立てていて、そのうちの2つのシーンはすでに撮影を終えている。日向を追いかけてきた葵が無人の駅に降り立つシーンと、葵が日向の住む街へ向かって駆けていくシーンだ。どちらも雲ひとつない快晴に恵まれ、非常にみずみずしいカットを撮ることができた。これから撮影する3つ目の場面は葵と日向が再会し、抱擁するという流れのもの。ハッピーエンドを飾るラストシーンで、非常に重要な場面だ。なおこのシーンは『太陽の台地』と呼ばれる場所で撮影する。僕は大学の授業の合間を縫って十カ所以上のロケハンを行い、一番イメージにぴったりくるこの高原を撮影場所に選んだ。 「でも本当によかったのか?」 「何が?」 「何がって、日程だよ」 「え?だって時期的にも今が一番撮影に合ってるし、全員のスケジュールの都合がつくのも今日しかないだろ?」  僕は響にそう訊き返す。 「でもお前さ、今日は13日の金曜日でしかも仏滅。その上三りんぼうの日だぞ?」 「なんだ?その三りんぼうって」 「知らないのか?三つ隣が亡ぶってかいて三りんぼう。この日に家を建てたら三軒隣まで滅ぼすと言われるほどの大凶日だと昔は言われていたんだぞ」  バックミラーに大きく見開かれた響きの目が映し出された。 「仕方ないだろ。今日しか全員の都合つく日がなかったんだから。それに三りんぼうだって、家や建物を建てたりしなければいいだけの話だろ?話を聞く限りだとさ」 「まぁ言ってしまえばそうだけどさ……」 「ほら、もうすぐ目的地だぞ」 「あ、あぁ。いい()が撮れるといいな」 「撮れるといいな、じゃない。撮るんだよ」  僕はそう告げて親指を立てて見せた。車は坂道を登っていく。最高のロケーションは、もうすぐそこだ。
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