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「うわぁ!すごい!」
歓声を上げたのは葵役の美玲だった。それもそのはず。美玲の視線の先には満開のひまわりが所狭しと咲き並び、一面が真っ黄色に染まっていたからだ。
「だろ?」
僕は胸を張ってそう答える。
「これは……太陽の台地にふさわしい場所だな。最高のラストシーンが撮れそうだ……」
「だろ?だろ?」
名カメラマンの映のつぶやきが僕の自信をさらに深めてくれた。
「ここで私と美玲さんのシーンを撮るんですね?」
「そうだよ。葵の気持ちと日向の気持ちがひとつに結ばれるシーンだから、頼むよ」
「はい。全力で頑張ります!」
拓巳は気合いを入れ直すようにそう答えた。
映と響が機材のセッティングをする中で、僕は美玲と拓巳に一連の撮影の流れを説明する。今回は台本通りの撮影のほかに、近くの山から一面のひまわりを見下ろすようなカットの撮影なども行う。そのときの立ち位置の説明なども必要なのだ。
「以上の流れでお願いします」
僕がそう締めくくると、美玲と拓巳は深く頷いた。
そのときだった。それまでのジリジリとしたアスファルトの熱気をかき消すかのように冷たく湿った風が吹き付けてきた。雲ひとつなかった空には暗雲が立ち込めてきて、ものの数分で空を一気に覆った。
「おい孝明、まずいぞ」
映が駆け寄ってきた。
「そうだな。さっさと撮ってしまおう」
と僕が答えた瞬間、空からぽつり、ぽつりと雨粒が落ち始めた。その雨足は急激に早くなっていき、あっという間に本降りとなった。
「これはヤバい!一旦引き返すぞ!」
僕はそう皆に告げる。セットした機材を手分けして持ち、車の中へと引き揚げて行った。
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