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孝明、晴れを祈る
「どうだ?行けるか?」
「……まぁやるだけやってみろ」
僕の問いかけに映は答えず、ただそれだけを言い放つ。撮影の危機なのになんとも冷たい奴だ。僕は彼ら4人をハイエースに残し、車に積んでいたセットを組み上げる。横殴りの雨と強い風が僕の体力を容赦なく奪う。20分くらい経っただろうか。僕はそれに負けずに縦横無尽に動き、セットを組み上げた。
「よし、あとは仕上げだ」
僕はそうつぶやき、ハイエースのトランクを再度開ける。ずぶ濡れになったジーンズとシャツを放り込み、袋の中からゆったり目の着物と綸巾を取り出して身に纏い、そして右手に羽毛扇を握る。ハイエースの扉を閉じると、僕はセットの中央へと段差をのぼっていった。今から1800年以上も前に七星壇で風を祈った諸葛孔明もこんな気持ちだったのだろう。
「天候を司る神よ。我に力を与え給え。この荒れ狂う雨を沈め、太陽の恵みが燦々と照りつけるよう、お頼み申す。南無八幡大菩薩!くわぁぁぁっ!」
いろいろ混じっている気はするが、この際気にしていられない。僕はそう叫び、羽毛扇を天高くかざした。そのときだった。
「ドゴーーーーン!」
凄まじい音と共に、空が激しく光った。
「おお!神に我が祈り届いたか!」
僕の魂は震えていた。天が光るのは僕の祈りが通じた証拠。一番の勝負のときに天に祈りが……
「おい孝明!早く乗れ!」
ハイエースからがなり声が聞こえてくる。響の声だ。
「どうした?天に祈りが通じたのに帰るのか?」
「何バカなこと言ってんだよ!後ろ見ろ!うしろ!!!」
「全く!祈りの最中なのに……」
僕は後ろを振り返った。すると遠くに立っていた一本の欅の木が真っ二つに割れ、燃えていたのである。
「落雷まで起こせるなんて……僕の力、すごいな……」
「違う違う違う!早く乗れってば!」
響はそう叫ぶが、僕は首を横に振った。
「大丈夫だ!天の祈りは必ず通じる。神様!どうぞ我に……」
と祝詞を唱えている途中のことだった。ハイエースから雨がっぱを着た美玲が飛び出してきたのだ。
「私、この映画を絶対成功させたいんです。お願いです。雨を止ませてください」
美玲は修道女のような澄んだ瞳で天を見つめ、両掌を胸の前で組んだ。すると、みるみる間に雲が流れ去り始め、お天道様が姿を表したのである。そして一点の曇りも無くなった頃には欅の木を燃やしていた炎も完全に鎮まっていた。どうやら美女の祈りは諸葛孔明の知謀をも超えたらしい。
「「「えええええええええっ!!!???」」」
ハイエースに残っていた3人は口を揃えて叫んだ。
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