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エピローグ
「……」
ロケが終わってから3日後のこと。編集担当の梅原継はロケされた映像を一通り見てから黙り込んだ。その表情は固く、ラストシーンの虹を凝視している様子だ。
「どうだった?」
僕がそう尋ねると、継は首を横に振った。
「え?何かまずい点でもあったか?」
思わず僕は問いかける。継はそれには答えずマウスを右手にとる。そして暫くして継の右手が止まった。
「ここを見てくれ」
継の目の先にあったのは駅を降り立つ場面。快晴に恵まれたこともあり片田舎のレトロな風景がノスタルジックに撮れたなと自画自賛していたシーンだ。
「そして次はここ!」
継が次に見せてきたのは葵が日向のもとに向かって走るシーン。太陽が燦々と照りつける中で額に汗しながら真剣なまなざしで駆けていくその姿は、きっと観客の心を揺さぶるに違いないのだが……。
「これのどこが問題なんだ?」
「まだ気づかないのか?ラストシーンと今のシーンのつなぎ、どう考えても反則だろ!」
「え?でもラストシーンは最高の撮れ高だぞ?綺麗なひまわりが一面に咲き誇ってるし、おまけにくっきりと虹が……あっ!」
僕は額から一気に熱が引いていくのを感じた。そして継は僕の顔を見て深く頷いた。
「そうだよ。虹は、雨が降った後じゃないと出ないんだよ。お前が撮ったシーンの中で一箇所でも雨の描写、あったか?」
僕は思わず天を仰いだ。激しい雨が何とかギリギリで止んでほっとしていたとはいえ、こんなことを見落とすなんて……。
「継、この虹編集で消すことはできるか?」
僕は祈るような気持ちで継に問いかける。
「できる。だが……」
「だが……何だ?」
「だが、勧めない」
継は言い切った。
「どうしてだ?」
「お前だって思うだろ?虹と太陽、一面の向日葵、すべてが2人の行く末の幸せを指し示してるんだ。この映像を使わない手はないだろ?」
「じゃあどうしろって言うんだ?」
「くっきり浮かぶ虹につなげるには、方法は1つしかないだろ」
「方法はひとつ……そうか!」
僕は思わず声を上げた。
「分かったら早速追加撮影の準備をしろ」
「そうだな」
僕は決めた。駅のシーンと、葵が走るシーン。ここのロケをやり直せば撮れ高は間違いなくグンと上がる。ただ、そのためにはきっともう一度神様に祈りを捧げる必要があるだろう。
「どうか、土砂降りの雨に恵まれますように!」
と。
【終】
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