Ⅻ 女の戦いと告げられる想い

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「サクラ様には、ここに来て痛い思いばかりさせてしまっています。護衛と言いながら申し訳ない」  きょとんとしていた顔が首を傾げ、探るように問う。 「セルシアになれなかったら、就職口としていいですよってことですか?」  伝わらなかったかと苦笑し、遠回しではなく直球を投げた。 「いいえ。俺と結婚しませんかと、言っています」 「……は?」  混乱するとこんな表情になるのかと、黒い瞳が自分を見つめたまま凝固する様に、笑いがこみ上げる。 「からかいましたね?!」 「いいえ。真剣ですよ。ちょっと表情が面白かったので」 「いやいやご自分が言ってる意味わかってます?!」 「サクラ様こそ、言われてる意味、わかってますか」  まっすぐに見つめて静かに問うと、顔を赤くした咲羅が困惑したように口を噤んだ。 「覚えておいてください」  クロシェは咲羅の手を取り、その甲にそっと口付けを落とす。 「この世界において、手に額を当てるのは忠誠の証、口付けを落とすのは、愛を捧げるときです」  (おのの)いたように咲羅が手を引っ込めようとするのを、クロシェは逃がさなかった。 「そのような目で見られていないことはわかっていますので、お返事は今でなくて構いません。俺はあなたを、主君としても、一人の女性としても、支えたい」  狼狽しているのが手に取るようにわかる表情に、クロシェは笑った。先程、女性陣と対峙したときに見せた凛々しい様子が、嘘であるかのようだ。  誰かを特別に想える日が来ることなど、考えられなかった。結婚も義務の一環であり、両親のような恋愛の末になど、思いも寄らないことだ。けれど今は、この少女が持つ強さも脆さも己の手で守りたいと、胸が痛むほどに、切に思うのだ。 「愛しています、サクラ様」  こんな言葉を心から言えることが、自分でも意外であり、嬉しくすら思う。  そこに、医師を連れたサラシェリーアが慌ただしく戻ってきた。 「私は、この件を報告して参ります。大事になさってください」  そう言って医師と場所を変わり、クロシェは最奥をあとにした。
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