XⅢ セルシア、誕生

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 回収した水差しを洗い終え、井戸から汲み上げた新しい水を入れる。もう氷水手前のような冷たさに、咲羅の手はすぐに赤くなり、指先は感覚を失った。 (恋愛したことない人間に) (いきなり結婚から話に入るとか!) 「あんた何難しい顔してるのよ」 「へ?」 「腹立つことでもあったの? それ、破かない程度にしといてよ。縫うのも大変なんだから」 「はーい、ごめんなさーい」  洗濯物を洗う手についつい力が入ってしまい、また考えてしまっていたことに反省する。思考はすでに、振り回されていると言っていい。これが「ときめいて」考えている状態ならまだしも、疑問符だらけで解答のない難問に取り組むのと変わらないなど、時間の無駄だ。  咲羅が手早く洗濯物を干していると。 「よう。やっと出てきたな」  シーツの影から、リクバルドが顔を出した。 「リク」 「長官たちがよく許してるな、こういう雑事すんの」 「あー……ハーシェル王が好きにしていいって、最初に言ってくれたからね。セルシアの選定をも一回受けるまで、なんにもしないのも落ち着かなくて」 「ふーん。サクラの正体、みんなに話してもいいのか?」 「サンドラさんには、特に隠し立てをする必要はないって言われたから、別にいいんだと思う。言ったら、距離を置かれたりするのは淋しいなあって思ってたから、黙ってただけで。それに、男の子だと勘違いされたお陰で助かったこともあるしね」 「ああ、うん。今のお前と、あの夜のお姫様が同一人物とか、いまだに騙されてるんじゃないかって気がしてる」 「胸見て言わない!」  怒った咲羅に、リクバルドがいつものように笑った。 「サクラ、手え出せよ」 「手?」  なんかくれるの? と両手を広げて見せると、またプッと笑われた。 「手荒れがひどくてまあ、ホント、貴族のそれじゃねえな」  そう言って眺める視線はひどく優しいもので。  存外大きな手が咲羅の右手を取ってひっくり返すと、すっと片膝をつき、額に手を当てた。
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