紫藤ファミリー

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紫藤ファミリー

◆◇ 紫藤ファミリー ◇◆ 『幸せ』と言うものを考えてみる。  それは当たり前のように溢れているのに、  でも僕たち人間は、意外とそれに気付かないまま日々を過ごしている。  当たり前に感じ過ぎていて、『平穏』と言うのがいかに幸福であるか  気付かないでいるのだ。  例えば――― 「当店“Fine(フィーネ)”の今月の売上高、純利益高第一位は 紫藤 響(しとう ひびき)」  パチパチパチ…  フロアに集められたスタッフたちが拍手を起こし、照れくさい様子を装って、わざとらしくない程度で僕は小さく頭を下げた。  僕の勤めるのは東京郊外にある小さなアンティークショップ。と言っても、扱っているものは家具や調度品よりも楽器がメインだ。  年代物のピアノやヴァイオリン、その他もろもろ。  もはや楽器として用をなさない、僕から言わせてもらうと「誰が使うんだ、こんなもの」とガラクタ扱いでも、驚くほどの高値で売れる。 「ありがとうございます。手助けしてくださった皆様のお陰です」  毎月、月末の締め日に発表される成績が好調であっても、お決まりの台詞で用意してきたかのような笑顔を張り付けて。  僕がこの店に就職したのは、アンティークが好きとか楽器が好き…とかそんな理由じゃない。  単に離れられないだけだ。  家を出ても、捨てても尚もつきまとってくる影―――  この体に流れる“紫藤”の血から―――  それとも少しでも“音楽”と関わっていると、  またどこかで“彼女”と繋がっていられると思っているのだろうか―――  捨てたのは、“紫藤”と言う名前か  それとも  あの狂おしいほどの―――感情なのだろうか
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