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彼女は「よっこいしょ!」と小さく掛け声を掛けてベッドに老人を引き上げようにも小柄な彼女の力だけではどう頑張ったって無理があった。
幾ら遺体で、痩せ細った老人とは言え、彼女の身長より20センチはある男の体はやはり重い。
いくら初秋とは言え、ついさっきエアコンを入れたばかりの室内での大作業に、すぐに汗の玉が額に浮かんだ。
「手伝うわ」と女が老人の足元に駆けてきて老人の両足を掴む。
「気をつけて。不自然な場所に指紋とか残ってたら疑われるわ」
「分かった」女は頷き慎重な手つきで老人の体を持ち上げ、女二人掛りで何とか死体をベッドに横たえることに成功した。
次にやることは決めてある。死体を移動させている間に段取りを考えていたのだ。
まずはこの弓型に反った不自然な体。死後硬直が始まっているのだろう、その体は正常な位置に戻すのが難しかった。背を正し、不自然に反りあがった指の一つ一つを慎重な手つきで元の様に戻す。これが一苦労だった。だがここで怠ってはいけない。少しでも不審死の疑いが出たらまっさきに自分たちが疑われるからだ。
体のほとんどの筋肉を直し、最後に表情を直す。この狂い笑った顔がどうにも不気味で、できれば触れたくない、それが本心だったが、しかしこのままではやはり疑われる。意を決して彼女は何か驚愕なものを目撃して見開かれたような双眼に手を伸ばした。
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