黒い兎

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 黒い兎という名画が誕生した日。  私は、大好きなピンク色のクレヨンで白いうさぎを描くつもりだった。ふわふわで可愛らしいうさぎを、ピンク色で表現するつもりだったのだ。  私の思惑通り、ピンク色のクレヨンで描いたうさぎはとても可愛らしかった。その素晴らしい出来栄えに、今すぐにでも踊り出したい気分だった。  しかし、不幸なことに、喜びの絶頂にいる私に向け、隣に座っていた男子がこう言った。 「ピンクのうさぎなんていないよ。変なの」  私はすかさず「ピンクじゃない。白だよ」と彼に言った。  彼は「ピンクじゃん。お前のうさぎ変なの」と繰り返した。  ピンクではなくて白だ。そう思っていた。それなのに、彼に変だと言われた途端、私の目に映るピンクのうさぎはあっという間に『変』になった。  動物園にピンクのうさぎはいなかった。動物園だけじゃない、図鑑にもピンクのうさぎなんて載っていなかった。  私は皆がそうしているように、黒いクレヨンを手に取り、ピンク色の輪郭をなぞってみた。その瞬間、ふわふわのうさぎは、なんだか毒々しい兎へと変貌した。こんなの可愛くない。  私は憎しみを込めて黒いクレヨンでうさぎを塗りつぶした。  うさぎは、もはや兎だった。
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