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「す、すみませんっ」
振り返れば、外灯の柱だった。
目の端に何かが明かりを受けてちらついていた。
耳鳴りがした。頭の中の警告音に従って、そのまま残り僅かな並木道を通り抜けるべきだったのに、ちらつく何かを見てしまった。
明かりの下の山井には、暗がりの人影をはっきりと判別できなかった。
ただ、そこに三人の人影があるのは分かった。
木に背を預けた男の股間にしゃぶりついている白いシャツの横顔が気になった。
綺麗な顔だった。その下半身はすっかり裸で、もう一人の男の腰がぴたりとくっついていて突き上げていた。
後退りしながら、なぜか目が離せなった。
間の男が山井に気付いてこちらを見た。
目が合った瞬間にその男は身を震わせた。
山井はそれを合図にしたように走った。公園の出口の階段で、最後の一段を躓いた。
歩道にうずくまる。
そこは嘘みたいに静かだった。
足首をひねったようだった。痛みをこらえながら立ち上がり、ちょっとした石垣の上の植え込みを見上げる。この木々の向こうに異世界が存在しているとは全くわからない。
とぼとぼと歩き始めた。
向こうの駅周りには商店街があり、線路を挟んだ反対側は銀座と呼ばれる夜遅くまで賑やかな繁華街だ。こちらと言えば反対側にちょっとした商店街があるもののこの時間は公園側のコンビニが一つ開いているだけ。
公園を挟んで住宅街になるが、一昔前のベッドタウンは、ひっそりとしている。高齢者が多いからだ。
こちら側はこの時間でなくても人通りは少ない。
山井も今のアパートに越してきてから、駅までの道を何度か通ったことはあったが、利便性がないため積極的に利用することはない。
件の公園は桜の季節に一度だけ来たことがある。並木道の向こうにある噴水広場とその向こうのテニスコートは賑やかだった。
夜に別の顔があると、どうして知ることができるだろうか。
アパートに戻ると、そのままベッドに倒れこんだ。心臓の鼓動に合わせて足首が痛む。
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