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あのAVは山井の手元にある。
シャワーを浴び終えると、ベッド下の引き出しの奥からそれを取り出した。
デッキに挿入して、部屋の電気を消す。テレビの画面が青白い光で部屋をほんのり明るくした。
このAVの内容を、山井が全部しっかり見たのはひとり暮らしを始めてからだった。あの集まりの日には途中で抜け出して終わりまで見れなかったのだ。
女の子と喋ったことのないような暗い男ばかりの部員たちの中に、一人だけ、異色の男がいた。
綺麗な男だった。綺麗と言っても女っぽくはない。新選組の土方歳三や、俳優の玉木某、山本某のような男らしい美丈夫だった。
彼はクラスメイトでもあった。学年一のモテ男の彼がこの集まりにいる意味が分からなかった。
興奮が高まって、どうすべきか戸惑っている時に彼は山井の足元に座って、山井の足首を掴んだのだ。
思い出した瞬間に足首が痛んだ。
あの日のように、その瞬間に快感が放出された。
虚無感に襲われる。
彼のことが好きだった。親友として、だと思っていた。
足を掴まれて、下着を汚してしまったことが、すごく恥ずかしかった。まっすぐ見上げられて、逃げ出した。
大好きだった親友をただの親友としてみていないことに気付いてしまった瞬間だった。
着替えてリビングに戻った後のことはあまり覚えていない。
彼が好きだった。でも、あの日以来会っていない。
春休みが終わって、新学期、彼が退学していることを知った。
誰も彼がなぜ辞めたのか、どこに行ったのか知らなかった。
先生たちも急に退学届けが出されたとしか教えてくれなかった。いやそれしか知らなかったのだ。
「あの人も綺麗だったな」
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