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来月頭発売の月刊誌の校了が週末に迫った月曜日、山井の勤める出版社◎文社の編集部は嵐のようだった。
任されているページの構成の最終確認をしていると編集長の声が山井を呼んだ。
「ノイ! 特集ページの素材どうなった?」
立ち上がって、慌てて手帳を括る。
PCの中のスケジュール帳にも書き込んであるが、山井は紙に書いてある方が安心するタイプだった。
「高根さんのデータ締め切りは明日になってます」
ここで編集を担当している雑誌の記事の大半は取材に行かずに原稿を依頼し、フリーのカメラマンの高根に写真を依頼している。
先ほどページを確認した時にはまだ写真の部分が空白だった。
「あの人、締め切り前日までに送ってこないときは落とすことがあるからな…、ノイ、悪いが来月の入稿予定の記事、準備しといてくれないか?」
「え?」
「え、じゃない。今から行って写真撮らせてもらってこい」
慌てて先方に電話をして、原稿の締め切りを前倒しにできるか伺うと、写真を撮りに行くことになった。
戻るまでの作業を後輩にお願いして出発した。
向かう道中、愚痴がこぼれる。
「なんのために外注してるんだ」
今日も残業が確定だ。校了前の修羅場を丸っと抜けられるわけがない。
文句を言いながら、自分がこの編集部に必要とされていると感じて嬉しくもある。写真部だったことが、この部署への配属理由だったと聞いている。
どうせなら外注せずに全部自分に取材させてもらいたいところだが、山井の仕事は撮影ではない。肩書はグラフィック・PDFデザイナーだ。
取材先は5軒のパン屋。町のパン屋さんのそれぞれの売り上げナンバー1パンの特集なのだが、店はそれぞれ離れている。
しかしもともと予定していたのは7軒だ。原稿の準備が間に合わないからと、3つ断られていた。
1つは山井が取材し、記事を書くことで了承を得た。
しかし、もし、高根が締め切りを落としたら、それではページが埋まらない。写真を大きくして隙間を作らないことはできなくもないが、毎号7軒なのだから減らすわけにいかないのだ。
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