傘はいらない

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 私の心の中にはやまない雨が降っている。  友人との会話が盛り上がっている時も、おいしいものを食べている時も、大好きな本を読んでいる時も。  私の中の雨は、小雨にはなっても決してやむことはない。  同時に梅雨が始まった。じとじとじとじとうっとうしくて、これまで以上に深く深く私は自分の中にうちとどまる。  ベッドに寝そべると、耳をすまさなくても、雨音が窓をたたく音が聞こえてくる。  窓をたたくのが、あの人だったらいいのに。  そうして、私を連れ去ってくれたらいいのに。  叶わないのはわかっているのに、そんな妄想を何度も何度も繰り返す。  そんな時、ぐううとお腹が鳴った。感傷に浸っているのに、間の抜けた音だ。  胸がいっぱいでも、動かなくてもお腹はすく。滑稽だ。    私は、のっそりと起き上がり、冷蔵庫を開ける。  すかすかだ。水のペットボトルしか入っていない。  今度は、シンク下の引き出しを開けてみる。いつも、ストックしてあるはずのカップラーメンが一つもなかった。
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