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3. 子供の頃のお父さん
翌日、わたしはお母さんのところに行って、お父さんの小学校時代の卒業アルバムとかを見せてもらった。
昔のお父さんは、どこか翔太の面影と似ている。やっぱり祖父と孫だ。
「お父さんと仲が良かったのは、新ちゃんと公ちゃん。この子とこの子よ」
お母さんが写真を指差す。
「よく知ってるね、お母さん」
「お父さんと最初に知り合ったのは、この頃だからね」
「そうなの?」
またしても知らない情報が出て来た。
「よくいじめっ子からかばってもらったものよ」
その頃を思い出したのか、お母さんはくす、と笑った。
「その頃のお母さんのアルバムはないの?」
これは完全に興味本位で、わたしは訊いた。
「わたしの写真は、あまりないの」
お母さんは答えた。
「父親──あんたのおじいさんね──が早くに死んじゃったからね。写真を撮るどころじゃなかったわ。残ってるのはこれくらいかな」
そう言って、お母さんは古い写真を見せてくれた。
小さい頃のお母さんが、どこか不安そうにこちらを見ていた。胸元で、何かを握りしめるようにぐっと手を握っている。その顔立ちは、子供の頃のわたしによく似ていた。
「返していないもの……ですか?」
連絡が取れたのは、新ちゃんこと大山新一さんだけだった。大山さんも、電話口の向こうで首をひねっている気配がした。
「思い当たることはありませんねえ……健ちゃん──お父さんは、知っての通り真面目な人でしたから。人のものを取り上げるようなこともしませんし」
「子供の頃からそうだったんですか?」
他の人と全く同じ反応に、何とはなしに訊いてみる。
「そうですね、宿題なんかもきっちりやって来るタイプでした。ちょっととぼけたところもあったけど、正義感も強くてね。幸ちゃん──あなたのお母さんがいじめられていた時なんかでも、いじめっ子からよくかばっていましたよ」
「その話は、母からも聞きました」
「健ちゃんと幸ちゃんが結婚したって聞いた時は、あの頃から健ちゃんは幸ちゃんを好きだったのかな、と思ったもんです」
そして、お父さんとお母さんは50年近く連れ添った。お父さんらしく、実直に。
「でも何だね。健ちゃんがもし本当に返せてないものがあるんなら、かえって言いだせなくてそのまんまになってんじゃないのかねぇ。健ちゃんのことだから、他にそういうものを残したくなくて、一層真面目になってたのかも知れないね」
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