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結局、お父さんが返せなかったものについて何もわからないまま時間は経ち、倒れてから二ヶ月程でお父さんは逝った。思っていたよりも安らかな臨終だった。
通夜や葬儀の準備をしていたわたしは、ふとお母さんの胸元にペンダントが下がっていることに気づいた。古びた楕円形の銀のペンダント。見たことのないものだった。
「お母さん、そんなペンダント持ってたっけ?」
「ああ、これ?」
お母さんはそっとペンダントに手をやった。
「形見なの。わたしの父親、あんたのおじいさんの」
「そんなのあったんだ。知らなかった」
「でしょうね。これはずっと、お父さんがしまい込んでたものだから」
お父さんが? お母さんの形見の品を?
「え……どういうこと?」
お母さんは少しだけ微笑んで、語り始めた。
○
──お母さんが子供の頃、いじめっ子に目をつけられてたことは話したでしょ?
その頃、わたしは父親を亡くしたばかりでね。父親が遺してくれたこのペンダントを、わたしはいつも首にかけてたの。
父親は骨董の趣味があって、これは骨董品屋で見かけたものをわたしにと買って来てくれたのね。これをくれた直後に死んでしまったから、本当に形見になってしまったの。
でも、いじめっ子がそんなものを見逃すはずがないでしょ。
いつも遊んでる空き地で、いじめっ子にこれを取り上げられちゃってね。すぐに取り返そうとしたけど、草むらの中に投げ捨てられて。
そこへお父さんがやって来て、いじめっ子を追い払ってくれたの。でも、ペンダントはこの通り小さいものだから、探してもなかなか見つからなかったのね。
わたしは半泣きになってて、お父さんも懸命に探してくれて。何日か一緒に探してくれたけど、結局見つからなかったの。
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