4. お父さんのロケット

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4. お父さんのロケット

「え? じゃあなんでこれがここにあるの?」 「だから言ったでしょ。お父さんがしまい込んでたのよ」  お父さんとお母さんの新婚当時。お父さんが家に忘れ物をして、お母さんに届けてくれるよう頼んだ。  その忘れ物は机の引き出しの中にあると聞いて、お母さんはお父さんの机の引き出しを片っ端から開けて探したのだという。 「そしたらね、引き出しの隅にこれが隠してあったの」 「で、どうしたの?」 「どうもしないわ。そのままにして、忘れ物を届けただけ」  お母さんは平然とそう言った。 「お父さん……ペンダントを見つけてたの?」 「そうでしょうね。いつ見つけたのかはわからないけど──これを探すのを口実に、わたしと一緒にいたかったんじゃないかしら」  好きな子の近くにいるために、周りにも、その子にもペンダントを探すと言っておけば冷やかされたりしないから。  そしてそのまま、大山さんが言ったように、かえって言い出せなくなってずっとペンダントを隠し持っていたのか。今に至るまで。  あるいは、返すことによってお母さんとのつながりが切れてしまうような気になっていたのだろうか。  あの河川敷にばかりいたのも、その時の記憶からだ。ペンダントを探して見つけて、でも返すかどうか、返すとしたらどうやって返すか、お父さんは生涯ずっと迷っていたのかも知れない。 「お父さんが亡くなる前日にね、これをつけて病院に行ったの。ちょうど看護師さんも誰もいない時、少しだけお父さん意識が戻ったのね。──だからわたし、言ってあげたの」 「何て?」 「これをそっと握らせて、『ペンダントを見つけてくれたのね、ありがとう』って」  お父さんの心残りは、最後の最後に解消されていた。お母さんによって。 「これはね、写真を入れられるようになってるのよ。ロケットペンダントっていうの」  ロケット。それは奇しくも、お父さんが生涯に渡って取り組んでいたものだ。いや、ロケットペンダントにこだわっていたから、同音異義のロケットに打ち込むことになったのだろうか?  お母さんは、ペンダントを開いて中を見せてくれた。若くして亡くなったという、お母さんのお父さん──わたしのおじいさんの写真が入っていた。
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