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「あれ? なんで兄ちゃんが目の前に?」
誠也は俺を見てはポカンとする。
「どうやら、ようやく俺の体から抜けることに成功したようだな。色々話をしたいところだが、とりあえずゴキブリをまず退治しねぇとな」
俺はスリッパを持ち、ゴキブリの元に行き、ゴキブリをぶっ叩いて処理をした。
「兄ちゃん凄いや……」
「ふ、まあな。それより話の続きをしようか」
「うん。ところで兄ちゃん、僕の姿が見えてるの?」
「ああ、見えてるぜ」
「兄ちゃん、霊感あったの?」
「いや、ない。もしかしたらお前が乗り移ったことで霊感が身に付いた可能性があるな」
「そうだったんだ……なんかごめん」
「まぁ気にすんな。なっちまったもんはしょうがねぇ。それより誠也。俺の体から抜け出す方法がわかったのか?」
「うん。ものすごーく勢いつけて動くと抜け出せるみたい。乗り移られた人にとっては危ないけどね」
「ああ、確かに危なかったな。結構痛かったしな。なぁ、誠也。お前と両親には悪いんだが、正直二時間も拘束されるのは辛いと思ってたんだ。だから、乗り移るのなら三十分にしてくれねぇか?」
俺の要求に、誠也は少し悩みながら応える。
「う、うん。わかった。そうだよね。兄ちゃん、辛かったよね。ごめんね」
「悪いな……」
罪悪感を覚えたが、こればかりは変えられない俺の意志だった。
「僕はオトンちゃんとオカンちゃんと話したり、遊んだり出来たことが凄く嬉しくて、兄ちゃんの気持ちをあんまり考えられなかったんだ……」
「霊体じゃそれが出来ねぇもんな。そうなるのも仕方ねぇよな」
「もどかしかった。いくら話し掛けても反応してもらえない毎日が。ワガママかもしれないけど、現世に戻れても淋しかったんだ。虚しかったんだ。
そんな時に兄ちゃんに乗り移って、虚しい日々が輝き始めたんだ。僕が大好きな星のように。
これが『生きてる』ってことなんだって思ったんだ。でも僕はもう……」
下を向いて泣きそうな表情になる誠也。俺は誠也を慰めるために口を開いた。
「なぁ、誠也。提案があるんだがいいか?」
「提案?」
この提案を言うことに少し抵抗があったが、俺は誠也の目を見据えて答えた。
「お前の両親に乗り移ってみるってのはどうだ?」
「オトンちゃんと、オカンちゃんに?」
俺の提案に誠也は目を丸くする。
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