27人が本棚に入れています
本棚に追加
ヘルツ警部はますます訳が分からなくなった。星が赤、緑、青に光って雨のように流れて落ちただと? 晴天なら星の一つだろうと断言出来たが、曇天と雨続きのウィーンでそんなものが見られる訳が無い。本当にホラ話だ。
「出まかせを言っているんじゃないだろうな」とヒューゲルが凄んだ。「大方流行りの幻灯機で見たものを自分が見たことにしたんじゃないのか?」
するとマルセルの表情が変わった。「馬鹿を言うねぇ! あいつはホラは吹くが、嘘はつかねぇ。あいつはあいつの頭でしか話を拵えねぇ。大体ゲントーキってぇのは何だぁ?」
「いや、なんでもない。すまないマルセル」とヘルツ警部は謝り、「ヘルベルトの行動はいつもどのようだったんだ?」と聞いた。
「あぁ? ヘルベルトはものを拾っては質屋に持って行ってたから色々な地区へ行っていましたぜ。アルザーグルント、レオポルトシュタット……それこそリングシュトラーセにも行ってたみてぇだし」
「一昨日も?」
「ああ、そうよ」
マルセルの事情聴取を終えた時、時刻は昼時だったので二人は一度警察庁に戻ることにした。ディースターヴェーク宝石店強盗事件の進捗は芳しくないと見え、どこもかしこも苛々し、ナイフで切り付けたいような嫌な雰囲気が漂っていた。ヘルツ警部はそれに嫌気が指してヒューゲルと一緒にカフェに逃げた。
「酷い空気だったな。煙草の煙が充満しているみたいだった」
「一週間が経っても何一つ見つからないなんて……市境は封鎖しているのに……」
「確か店は全焼してしまったんだよな。……だが、何故火をつけたのだろう?」とヘルツ警部がグラーシュを食べながら聞いた。
「なんでって……手がかりを残さないようにする為でしょう? 手がかり以外もそれこそ顧客名簿やデザイン画の写しまで燃えちゃいましたけど」
「そうなんだが、ディースターヴェーク宝石店は小さな店では無いし、全てを燃やすのは大変な手間だ。下水道から地下に潜って逃げたんだろうが、それにしたって下手したら捕まるかもしれないと言うのに。……何はともあれ、我々はヘルベルト殺しを解決せねば」
「やっぱりただの諍いなんじゃないですか、警部。狩猟用のナイフは誰かからスったのかも」とヒューゲルがうんざりした声を出した。「『流星群を見た』なんてホラを信じているんですか? 死ぬ前はホラ吹きだったのに」
「生涯ずっとホラ吹きだった訳じゃあるまい」とヘルツ警部が言い返した。「ヘルベルトが本当に幻灯機や劇場で流星群を見たので無いならな」
最初のコメントを投稿しよう!