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「見上げて見ろよ」
笑顔で言う彼にあたしは噛みついた。
「この土砂降りの天気に空見上げろって正気なの!?」
突然の豪雨に避難した花屋の店先、庇の下、 土砂降りの雨のしぶきにあたしも彼も浴衣の裾がもうずぶ濡れだ。
(年に一回きりの七夕デートなのに……)
誰を恨んでも仕方ないと思いながらあたしは唇を突き出す。
豪雨のわりにさして強くない夜風が店先に飾られた短冊をくるくると躍らせている。
あたしは折角の浴衣デートをぶち壊しにしてくれた大雨に唇を噛んでいるのに、隣の彼は平然としている。
(女の子みたいにロマンチックさなんて求めてないんだろうな……)
「天の川見たかったなあ……」
「牽牛織女かあ」
「彦星織姫って言って!」
「どっちでも同じだろ」
笑顔で返す彼を睨みつける。
(女心わかってない!)
口を尖らすあたしに隣の彼は不満げな顔を向ける。
「降っちゃったもんはしょうがないだろ」
わかってるよそんな事。
わかっててむくれてるんだよあたしは。
「あたしは星降るような夜空が見たかったの!」
無神経な彼に腹を立てたあたしは彼に八つ当たりする。
無言の彼がゆっくり地面を指差した。
七夕祭りを彩る筈の商店街の提灯群が、雨に濡れた路面に悔しい位綺麗なイルミネーションを描いていた。
激しい雨が色とりどりの光を躍らせて眩いネオンの様な色どりを見せている。
「星は降っては来ないけどさあ」
一拍置いた彼が続けた。
「降って来るのは星だけじゃないだろ?」
再度訳の分からない事を言う彼に、あたしは嫌味を込めてわざと大きく上を向いてみせた。
土砂降りの雨に花屋の庇の下、一体何が降って来るっていうんだ。
確かに降って来たのは星でも雨でも無かった。
(神様ごめんなさい。確かに短冊に彼の事書きました!)
雨あられと顔面に浴びせかけられるキス攻撃にあたしはこれまで神様を信じてこなかったことを激しく後悔した。
(来年の短冊は控えめに書いておこう……ここ店先だし)
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