一、南方を守護する朱い鳥

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 墓――と朱雀が言ったところで、真幌には思い当たる節があった。  古墳。つまり大昔の権力者の墓である。  歴史や考古学を少しでも掠ったことのある人間なら、そうでなくともここ明日香村付近に住む人間なら、朱雀と言えばまず、古墳内に描かれた壁画のものを連想するだろう。古代中国大陸から日本へ伝わった、方角を司る守り神である。玄武、白虎、朱雀、青龍。それぞれが、北、西、南、東に対応する。四体の、想像上の動物。総称して『四神』。  朱雀は南方を守護する神である。  古墳時代の終わり頃には中国から文化が伝わっており、日本で作られた古墳の中には、死者を護る意味を込めて、これらの神々を石室の四方の壁に描いたものがある。  その代表は、 「――キトラ、あるいは高松塚古墳」 「なんだそれは」 「あんたらのルーツがそこにあるかもしれないって話だよ」 「今の話で、そんなことまでわかるのか!?」  朱雀は、思わず身を乗り出すように、一歩近づいた。 「いや、だいぶ憶測でしかないけど」 「憶測でもいい、ルーツってなんだ」 「いや、あなたが壁画に描かれた朱雀を依代に魂を得たのだとしたら、四神の描かれた古墳から生まれたと考えられるのではないかと……自分で言っててとんでもない話だなこれ」  頭を抱えてしまう。壁画を依代に魂を得るってなんだ。曲がりなりにも歴史科学を学ぶ者として恥ずかしい。  けれども朱雀は俄然、瞳に強さをとり戻していた。 「古墳ってなんだ? 教えてくれ、おまえの推理」 「過度な期待は禁物だぞ」 「いやいや、是非とも聞かせてほしい。何か手がかりになるかもしれん」  真幌はまだ渋る。 「考古学にオカルトは必要ないんだけどな……」 「だが現に怪奇現象は発生しているのだ」  と、自分の発言にもっともらしく頷く朱雀。彼女の存在もじゅうぶん奇怪なのだが、それは棚上げらしく。 「ふふんっ。近所で阿鳥と同じにおいの人間を探して当たったが、とんだ当たりを引いたかもしれんぞ」  気を抜いて心の声を漏らしている。真幌の一声だけで、先程までの消沈ぶりはどこへやら、揚々とほくそ笑んでいた。それにしてもこの貧相な女子高生と同じにおいとはいったい。 「どういうことだよ」 聞き返すのと同時に、朱雀が突然慌て始めた。 「あ、ちょっと待て。私、憑依は今日が初めてで、そろそろ限界のようだ。この続きは、また、後日――」
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