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墓――と朱雀が言ったところで、真幌には思い当たる節があった。
古墳。つまり大昔の権力者の墓である。
歴史や考古学を少しでも掠ったことのある人間なら、そうでなくともここ明日香村付近に住む人間なら、朱雀と言えばまず、古墳内に描かれた壁画のものを連想するだろう。古代中国大陸から日本へ伝わった、方角を司る守り神である。玄武、白虎、朱雀、青龍。それぞれが、北、西、南、東に対応する。四体の、想像上の動物。総称して『四神』。
朱雀は南方を守護する神である。
古墳時代の終わり頃には中国から文化が伝わっており、日本で作られた古墳の中には、死者を護る意味を込めて、これらの神々を石室の四方の壁に描いたものがある。
その代表は、
「――キトラ、あるいは高松塚古墳」
「なんだそれは」
「あんたらのルーツがそこにあるかもしれないって話だよ」
「今の話で、そんなことまでわかるのか!?」
朱雀は、思わず身を乗り出すように、一歩近づいた。
「いや、だいぶ憶測でしかないけど」
「憶測でもいい、ルーツってなんだ」
「いや、あなたが壁画に描かれた朱雀を依代に魂を得たのだとしたら、四神の描かれた古墳から生まれたと考えられるのではないかと……自分で言っててとんでもない話だなこれ」
頭を抱えてしまう。壁画を依代に魂を得るってなんだ。曲がりなりにも歴史科学を学ぶ者として恥ずかしい。
けれども朱雀は俄然、瞳に強さをとり戻していた。
「古墳ってなんだ? 教えてくれ、おまえの推理」
「過度な期待は禁物だぞ」
「いやいや、是非とも聞かせてほしい。何か手がかりになるかもしれん」
真幌はまだ渋る。
「考古学にオカルトは必要ないんだけどな……」
「だが現に怪奇現象は発生しているのだ」
と、自分の発言にもっともらしく頷く朱雀。彼女の存在もじゅうぶん奇怪なのだが、それは棚上げらしく。
「ふふんっ。近所で阿鳥と同じにおいの人間を探して当たったが、とんだ当たりを引いたかもしれんぞ」
気を抜いて心の声を漏らしている。真幌の一声だけで、先程までの消沈ぶりはどこへやら、揚々とほくそ笑んでいた。それにしてもこの貧相な女子高生と同じにおいとはいったい。
「どういうことだよ」
聞き返すのと同時に、朱雀が突然慌て始めた。
「あ、ちょっと待て。私、憑依は今日が初めてで、そろそろ限界のようだ。この続きは、また、後日――」
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