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694年
瑞鳥を見た。
太陽の天高くに昇った刻、それは矢庭に南方より現れた。
ひときわ高く鳴く声を耳にし、目を上げたとき、その仔細な様子が一瞬はっきりと目に移った。
大きく、力強く羽ばたく翼は朝焼けのように朱い色をして、尾羽は金色に靡いていた。
あまりに神々しい姿に、私は思わず手を合わせたくなる気持ちがした。美しい都の、雨上がりの晴ればれとした空を、鳥は真一文字に飛び去った。
あれは大陸より伝わりし、南方を守護する神獣、朱雀によく似ている。
燃え盛る火のような翼を持ち、野を越え、山を越え、海を越えて、強く自由に羽ばたくのだ。
その翼が遠く小さく黒点となり、雲間の彼方へ消え果てるまで、私はひとり静かに見送った。
「その鳥は、飛鳥の都を護ってくれているのかしら」
彼女は床に伏したまま、小さな窓からわずかにのぞく青い空を見上げて、呟いた。きっとそうだろうと私は答える。
彼女は弱々しく、けれど美しい心で微笑んだ。
「私もいつか、見てみたいわ」
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